行政書士にできること  行政書士 西塔正弘

 


260号 2005年4月10日

(1)行政書士にできること

 皆様、初めまして。私は、行政書士の西塔と申します。旧国道57号線沿いの新町地区で開業しております。

 ところで、お会いした皆さんに、「とこっで、行政書士って何ばすっとや?」とよく聞かれます。いろんな業務があるんです。幅が広いんです。だからこそ何をしているかが理解されづらい。でも、それだけじゃないんですね。

 皆さんに、まだまだ我々行政書士が溶け込んでない、身近な存在になってない。ただそれだけなんですね。そんな中で、今回このような貴重な機会を提供いただきましたので、数回にわたり業務の一部をご紹介し、こんな身近な存在だったんだと、少しでも知っていただければと思います。

 皆さんが、日常生活している中で起こっている、身近な問題や悩み、あるいは不安なことって、必ず一つ二つありますよね。たとえば、遺言・相続、離婚、お金の貸し借り、契約解除、近隣紛争問題等。これらの身近な民事問題を、弁護士のように最終解決の場である裁判を出来る限りしないで、時間と費用、そして労力を極力避けながら法的解決を目指します。また、法律上の問題で誰かに相談したいんだけど、弁護士にお願いするほどでは、とかいう場合も意外とあるものです。それが皆さんの身近な存在である行政書士にできることなんです。

 民事法務以外に、いろいろな許認可申請業務も行っています。ひとりや家族で抱え込んでしまうより、案外相談してよかった、すっきり解決したとなるかもしれません。


264号 2005年5月15日

(2)遺言・相続

 先月号の初回では、大まかに行政書士って「何ばすっとだろか」について触れてみました。今回から、よりひとつひとつの具体的な内容に触れてみたいと思います。       
 先ず真っ先に挙げる事案は、「遺言・相続」です。読者の皆様も、今までに身内の中で、1〜2回は係りあった経験をお持ちだと思います。それだけ身近なことなんです。でも、案外知らないこともいっぱいあるんですね。これから先にも、係ってくることだから、この際覚えておいたら、損はないですよ。わが身を助けてくれることにもなるかもしれません。
 昨今、相続財産をめぐる争いが、非常に多くなってきております。今お住まいの社会的環境の変化による土地の高騰、相続への権利意識の高まりなどが、その背景にあると思われます。相続は、一生の一大事とも言えます。相続争いというのは、何も不仲な家庭だけの問題ではなく、ごく普通の家庭にも起こり得る問題でもあるかもしれません。家庭裁判所に持ち込まれる相続問題の多くは遺言書があれば、回避できたと言われています。
 自分に置き換えてみて、自分の身内や自身の死後、相続人の間で円満に遺産分割協議がなされるという保証は、実はどこにもないわけですから、無用な争いを避けるためにも、生前に遺言書を用意しておくことが最上の方法と言えると思います。遺言は残された家族への思いやりの形とも言えると思います。このことが、前回号でお話しした、裁判を出来る限りしないで、時間と費用、そして労力を極力避けながら法的解決を目指す(予防法務)ことに重点をおいている、行政書士の業務なのです。
 相続とは、「個人の財産的な権利や義務をその死亡と同時に、個人の配偶者や子供など相続人として法律に定められた者が包括的に引き継ぐこと」と定義されています。皆様もご存知のとおり、誰が相続人となり、どれだけ相続するかは民法で規定されています。遺言書があれば、先ず遺言の内容に従って、相続財産が分け与えられるわけですが、遺言書がなければ民法の規定によることになります。ですから、遺言書のない相続では、法定相続人が一応の基準に従って分割協議をすすめていくことになります。ここで、相続ならぬ争続が発生しやすい状況が生まれるのです。だから、遺言書の大きな意味があるのです。
 遺言書の効用、活用法については次回号で触れてみたいと思います。


268号 2005年6月12日

(3)相続

 前回では、民事法務と言われる分野(自身の身の回りでのできごと)の中で、一番身近なことのひとつである「遺言・相続」について、総論をお話しさせていただきました。
 では、具体的にいうと、まず被相続人(死亡した人)の配偶者は、常に相続人となります。ただし、この場合の配偶者とは、婚姻届を出している法律上の配偶者を指し、内縁関係の場合には相続人になれません。血族相続人(子、父母、祖父母、兄弟姉妹等)が一人もいない場合は、全財産を配偶者が相続することになります。血族相続人がある場合には、血族相続人とともに相続します。しかし、それには順位があり、どの順位の血族相続人と相続するかによって法定相続分は異なります。 
  配偶者がいない場合は、血族相続人が優先順位に従って相続することになります。血族相続人には優先順位がついているわけですが、第1順位は、被相続人の子です。配偶者も子もいれば並んで相続人となります。この場合、実子、養子、嫡出子や非嫡出子(法律上の婚姻関係に無い間に生まれた子で、認知された場合に相続権を有します)の区別はなく、ただ相続分割合についてだけは、非嫡出子は嫡出子の2分の1です。
 被相続人の死亡時(相続開始時点)で、本来の相続人であるはずの子が死亡している場合には、その子ども、つまり被相続人の孫が相続します。またその孫が死亡している場合には、曾孫が相続します。これを代襲相続と呼んでいます。配偶者と第1順位の場合の法定相続分は、配偶者2分の1、子2分の1です。子が複数いる場合は、この数で均等分割です。
 次に、被相続人に子がいない場合は第2順位として、被相続人の父母、祖父母等の直系尊属が相続人となります。尊属には代襲相続はありません。配偶者と第2順位の場合の法定相続分は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。直系尊属が複数いる場合は尊属の数で均等分割です。
  そして、第1、第2順位の相続人がいない時は、第3順位として被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。半血の兄弟姉妹、つまり両親のうち一方の親が違う兄弟姉妹は、全血の兄弟姉妹の半分しか相続分がありません。また、代襲相続は、兄弟姉妹の子までしか認められていません。配偶者と第3順位の場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1で、兄弟姉妹が複数いる場合は、兄弟姉妹の数で均等分割です。
  ところで、上記のように法定相続人でありながら、「相続欠落」「相続廃除」「相続放棄」等により相続人の資格を失う場合もあります。詳細な内容についてお知りになりたい方はご遠慮なくお尋ね下さい。
  これまで説明してきました法定相続人と法定相続分の規定で、遺言とも関連して重要な規定に「遺留分制度」というものがあります。これについては、次回の遺言と併せてお話ししたいと思います。


272号 2005年7月10日

(4)遺言

 先月号での「遺言・相続」について、総論から具体的な内容になると、「法定相続人はだれだの、法定相続分はどれだけだ」の規定は相続法の核心をなす部分ですが、なかなか一度には分かりづらい部分ですね。その上さらに今日の主な内容である遺言とも関連して、重要な規定に、遺留分の制度があります。

 遺留分とは、相続財産のうち一定割合は、遺言の内容にかかわらず、必ず一定範囲の相続人に留保されるという規定です。平たく言えば、その資格のある相続人が必ず貰うことができる一定割合のことです。その権利者の範囲は、配偶者、直系卑属、直系尊属までです。兄弟姉妹には遺留分はありません。遺留分を侵害した遺言は、無効ではありませんが、貰う権利のある者は、遺留分減殺請求をして、自分の侵害された権利を取り戻すことができます。この減殺請求権は、その権利を行使してはじめて効力が発生するので、遺留分を侵害された相続人が、それでよしとするならば、遺留分を侵害する遺言もそのまま実現されることとなります。なお、この遺留分減殺請求権は、相続が開始して減殺すべきものがあったことを知ったときから1年、相続開始から10年で消滅時効になります。
 さて、次は遺言の方式について説明します。一般的な普通方式と言われるものでは、自筆証書遺言と公正証書遺言が代表的です。一番簡単にできるのは、自筆証書遺言です。全文を自書して、日付・署名・押印すればできます。しかし、それらの要件を一つでも欠けば全て無効です。勿論ワープロや代筆も無効です。偽造や改ざん紛失などの恐れもあります。また、家庭裁判所の検認を受けて初めて効力が発生します。それらに対して、確実性が高く、偽造、紛失などの恐れがないのが公正証書遺言です。公証人が遺言者の口述を筆記し、その内容を遺言者本人、証人2名の前で読み上げ、全員で署名・押印して作成します。民法の規定ではそうなっていますが、実際のところは、私たち行政書士が委任を受けて、依頼者である遺言者本人との協議、確認の上、文案をあらかじめ作成し、事前に公証人と打合せをして、後日指定された日に遺言者本人が証人2名と公証人役場に行く時には、すでに出来上がっていて、改めて確認の上署名・押印さえすれば出来上がるというのが普通です。費用がかかりますが、安全、確実で、検認の必要もないため近年では、公正証書で作成するというのが主流になりつつあります。 証人2名が必要ですが、その承認には、推定相続人やこれらの配偶者、直系血族などの利害関係人はなれないので、親しい友人や行政書士などの専門家に頼むことになります。
 遺言書に何を書くかは原則的に自由ですが、そのすべてが実行されるとは限りません。つまり、法的に効力のある事項が定められてあり、法定事項以外はその実行の強制はありません。次回では、その法定記載事項とか遺言が必要な場合などにふれてみたいと思います。


277号 2005年8月14日

(5)遺言書

 あなただったら、遺言書に何を書きますか?遺言書に何を書くかは原則的に自由です。しかし、そのすべてが実行されるとは限りません。遺言書には、法的に効力のある事項が定められていて、法的事項以外は実行の強制力はありません。
 しかし、法的に効力のない事項でも、遺族が遺言者の意思を汲み取って実現してくれる場合もあるので、言い残したいことはすべて遺言しておいたほうがよいかもしれませんね。法的に効力のある主な遺言事項は次のとおりです。
・相続分の指定、指定の委託
・遺産分割方法の指定、指定の委託
・遺言による財産の贈与(遺贈)や寄附行為、信託による財産処分の仕方
・生命保険金受取人の指定、変更  
・遺産分割の禁止(最高5年間はできる)
・推定相続人(相続人と予定されている者)の廃除、取消 
・非嫡出子の認知 
・祭祀承継者の指定
・遺言執行者の指定、指定の委託

  などです。一般的には、「どこそこの土地・建物は妻○○に、どこそこの土地は長男○○に、どこそこの預金は長女○○に相続させる」とかいった相続分の指定とかが中心になります。以上、これまで相続のあらましを述べてきましたが、最初にもお話ししたように、自分の死後、遺産分割協議が円満に進むという保証はありません。中には、相続トラブルの発生があらかじめ予見される場合もあります。
  だからこそ、遺言が必要なことや、遺言があればということがいくつもあるのです。
遺言が必要なケースとしては、
・法定相続分とは異なる割合で相続させたい(前回でお話しした遺留分に注意)
・兄弟姉妹の仲が日頃からよくない   
・先妻の子供がいるので、もめごとが起こらないように
・法定相続人の中に、相続させたくない者がいる 
・先祖代々の土地を分割させないで、特定の者に相続させたい
・長男の嫁に遺贈したい(もともと相続権がないので)  
・内縁の妻に財産を与えたい(内縁関係には相続権はないので) 
・非嫡出子を認知したい(認知は生前でもできるが、遺言でもできるので)  
・障害のある子がいるので、自分の死後も安心して生活できるように後見人を決めておきたい

などが考えられます。次回は、事例をあげながら遺言の効用、活用法について、具体的にみていきたいと思います。


280号 2005年9月11日

(6)事例@

 あなたの身内やあなた自身の死後、相続人の間で、円満に無用な争いを避けるためにも、生前に遺言書を残しておくことが最上の方策であり、最後の意思表示だとお話ししてきました。この「遺言・相続」シリーズの最後に、効用、活用法について具体的な事例を何回かにわけてお話ししたいと思います。

◇ケース1妻に全財産を残したい
Aには妻Bがいますが、子はいません。Aの両親は既に他界しており、兄弟姉妹が3人います。財産は、住居に使用している土地・建物だけです。法定相続分によると兄弟姉妹の分は四分の一になりますが、Aは妻に全財産を残したいと考えています。
 この場合は明快です。Bに全財産を相続させる旨の遺言書を作成することです。兄弟姉妹には遺留分がないので、減殺請求される心配はないからです。逆を言えば、遺言書がなかったならば、兄弟姉妹から自分たちの分を主張されたりして、遺産分割協議書作成時の苦労が発生するかもしれませんね。このシリーズでお話ししてきた「争続」の始まりですね。

◇ケース2死んだ長男の嫁に財産を残したい
  Aは自分名義の土地・建物で、長男Bの家族と同居していた。Aの妻は既に他界し、食事や身の周りの世話は、Bの妻Eが長年にわたりしてくれていた。Aは老後を安心して暮らせているのはEのお陰だと感謝していた。
 ところが、頼りにしていたBが急死してしまった。B夫婦には子Fがいますが、まだ中学生です。Aには、次男Cと三男Dがいますが、他府県でそれぞれ生活しており、数年に一度顔を出すだけで、疎遠になっていた。また、AはC、Dの嫁とは、以前からあまり良い関係ではなかった。
 この場合、Aが亡くなり、遺言がない場合、法定相続人はF、C、Dです。法定相続分は各三分の一です。Eには相続権はありません。Fは未成年者なので、Eが法定代理人として遺産分割協議書に加わることになります。C、DがEの長年の苦労を評価し、それぞれの法定相続分を主張せず、例えば不動産はFが単独相続する旨の協議が調えば特に問題はないと思われますが、あくまで自分たちの分を主張すれば、不動産を売却して現金分割するとか不動産を担保に借金して現金を捻出して分与するとかになります。
 こういうケースでは、相続人の他に、相続人の各配偶者が協議に口をはさみ、権利を主張するなどしてきて、事態が紛糾することが多いです。いずれにしても、Eに酷な結果となりかねません。このケースでは、FがBの代襲相続人となるのでまだしもですが、Bに子がいないと、遺産はC、Dに各相続されるので、相続分のないEにとってはさらに酷な結果となりますね。だからこそ、AがEに対して感謝の念を形にして報いるために、とるべき方法は二つが考えられます。
 一つは、C、Dの遺留分に考慮しながらEにも遺贈すべく遺言書を作成することです。
もう一つは、Eと生前に養子縁組を結ぶことです。Eが養子になれば、四分の一の相続分を取得できることになります。さらに、養子縁組を結んだあとに、遺言で法定相続分以上の分を相続させれば、遺留分を考慮してもEとFとで遺産の最大四分の三まで相続できることになります。

 また、やむを得ず遺留分を侵害せざるをえないときでも、遺言書の中に、減殺請求者(この場合はC、D)に対して、減殺請求しないようにお願いしておく等、心情に訴える表現を入れておけば、法的拘束力はないものの、事後の紛争を回避できる可能性は高くなるかもしれませんね。
身近な事例を通して、相続を知るとか、遺言書を作成しておくことの重要さを少しでもご理解いただけたらと思います。


284号 2005年10月9日

(7)事例A

 今回の「遺言・相続」シリーズの具体的な事例は、全然あり得ないわけではないので、知っておけば万一のときには活かされるかもしれません。
◆ケース1 事実上婚姻関係が破綻している戸籍上の妻に財産を残したくない(内縁の妻に残したい)
 Aには戸籍上の妻Bがいますが、5年前に婚姻生活が破綻し、以来別居しています。しかし、妻Bは離婚には応じていません。離婚調停も不調に終わり、裁判離婚も考えましたが面倒になり以後放ったままの状態になっていました。ところが、数年前からAはCと同居を始め、今ではCと事実上の夫婦として生活をしています。
  しかし、戸籍上はあくまでも妻はBであり、Cはいわゆる内縁の妻という立場です。Aの財産は住居に使用している土地、建物と相当の現金です。今、自分が死ぬと、全財産は戸籍上の妻Bが相続するので、何とかしたいと考えています。
  内縁の妻のように相続権がない者に、遺産を残す方法は唯一Cに遺贈する旨の遺言を書くことです。生前に遺贈する方法もありますが、その額により多額の贈与税がかかってしまう場合があります。このような場合には内縁の妻Cに全財産を与えるという旨の遺言は、かえって死後紛争が起こることが予想されるので、戸籍上の妻Bの遺留分を確保して、その残りを内縁の妻Cに与えるという遺言が考えられます。

◆ケース2 認知した子がいるので、トラブルを回避したい
 Aには妻Bと子Cがいます。妻Bと結婚する以前の若い頃に、女Dとの間に子Eをもうけました。事情があって女Dとは結婚できませんでした。子Eについては認知届を出し、子Eは女Dが引き取り一人で育てました。その後、女Dとは別れ音信不通です。ふたりとも生きているのか、どこにいるのかもわかりません。そのことは妻Bも子Cも知りません。
  Aが死んで相続が開始になったら、認知したEはどうなるのでしょうか?Aの財産は土地、建物にいくらかの預金です。仮に残された妻Bと子Cとで、円満に遺産分割協議が調ったとしても、不動産の所有権移転登記に必要な相続証明書を作成していく段階で、認知した子Eの存在が必ず明らかになります。
  それは、戸籍は婚姻や転籍毎に新しい戸籍が編製されるので、死亡時の最新の戸籍には婚姻前に認知した子Eの記載は原則的にありませんが、相続証明書の作成にあたっては、生殖年齢に達したとき(15歳ぐらい)から死亡までの戸籍を全部収集するからです。実際には出生から死亡までの全戸籍を収集します。
 従って、相続人Eを除外して行ったBC間の遺産協議書は無効となります。非嫡出子は嫡出子の半分なので、妻Bは2分の1、嫡出子Cは6分の2、非嫡出子Eは6分の1になります。女Dは相続人にはなりません。
 Aとしては、不動産を妻Bと子Cに残したければその旨を遺言書にする必要があります。自分の死後、相続人であるBとCに非嫡出子Eを捜索させ、三人での分割協議を強いるのは事実上困難を伴うからです。
 このシリーズで常に述べている遺言書の効力、大事さですね。Eについては、できれば生前に捜索し、生存の確認、所在を明らかにし、遺言書の中で相当分の現金を相続させる旨を記載しておくのがよいかと思います。似たような事例として、別れた先妻の子どもがいる場合があります。この場合、先妻の子どもは嫡出子なので現在の妻Bとの子と同様の相続分を有します。


289号 2005年11月13日

(8)事例B

◆死んだ夫の相続財産は負債が多いので、出来ることなら相続したくない。

 相続で受け継ぐのは土地や建物の不動産、或いは預貯金や株券などのプラスの財産だけとは限りません。ローンや事業借入金などのマイナスも相続対象です。死んだ夫の相続財産は事業を行っていた関係上、借入金等があってプラスの財産よりも負債(マイナスの財産)が多く相続したくない場合、相続人は通常被相続人(この場合は夫)の死亡を知ったときから3ヶ月以内に限り、家庭裁判所に相続放棄の届出をすることができます。

相続権は該当者がいない場合は、順位していきますから相続放棄する場合はその順位に従って最終の兄弟姉妹まで手続きする必要があります。相続放棄の場合は代襲相続はありませんので兄弟姉妹で手続きは完了です。
 相続放棄の手続きをすれば、マイナスの財産を相続しなくてよくなりますが、プラスの財産を含め一切の相続財産を相続することができなくなります。マイナスの財産は相続しないで、プラスの財産だけ相続することはできません。それどころか、相続財産の一部を処分したりすると、単純相続したことになり、相続放棄ができなくなりますから注意が必要です。
  「自分は何ももらわなかったから関係ない、支払う義務がない」と相続人の間では主張できたとしても、第三者である債権者には適用しません。最悪は自分の住んでいる土地建物や給与等も差押えされる危険性もあります。
 プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する限定承認という制度がありますが、相続放棄と同じく3ヶ月以内に家庭裁判所に、共同相続人全員で共同してのみ申立ができます。3ヶ月以内に相続放棄や限定承認などの手続きをしないと、自動的に単純相続したことになります。
 ですから、被相続人が死亡して49日あたりがすぎたら、現実的な対応としても残された相続人は、相続財産を調査してプラスの財産のみやプラスの財産がはるかに多いことによる単純相続(通常の場合)、上記の場合のような限定承認或いは相続放棄するのがよいかをすみやかに協議する必要がありますね。
 構造的不況、リストラだ、多重債務だ、連帯保証人になってたとかが原因で、このところよくある事例です。これを機会に覚えておいて下さい。自身の知識や相談できる専門家を身近に置いておくことは、我が身を助けることにもなります。


293号 2005年12月11日

(9)生前贈与を積極的に活用しよう

 少し切り口を変えて相続と関係の深い贈与の視点から考えてみたいと思います。
 相続の問題の多くは遺言書があれば、回避できたと言われているので、無用な争いを避けるためにも、「自身の生前における意思表示として遺言書を用意しておくことが最上の方法と言える。遺言は残された家族への思いやりの形でもある」と以前書きました。
 しかし、この相続問題を当事者である親と子(一般的なケースとして)の間で、生前に十分話し合えたり、時の状況(例えば子が住宅を新築する時期)によっては、生前贈与を活用して相続対策、資産の承継(父・母から子へ)したほうが贈与者も自分の意思が明確に反映されるし、受贈者から見ても相続時に本当にそれが叶うのかとの不安もなくなります。
 これまでにも、財産を処分することによって事前にトラブルを回避し、あるいは財産を確保する手法はいくつも存在していましたが、贈与税などの税負担が障害となり、なかなか実行できませんでした。
 しかし、ここに紹介する平成15年に創設された「相続時精算課税制度」が、将来の相続税に比較して税負担を増加させることなく、財産を自分の意思のとおりに自由に処分(承継させる)ことが可能になりました。「相続時精算課税制度」は、贈与の形式によってではありますが、生前の遺産分割を可能にしました。
 贈与者が65歳以上の親であり、受贈者が20歳以上の子に限るとの制度ですが、親から子への贈与については2,500万円までは贈与税は課税されず、2,500万円を超えた部分についての贈与税率も20%に軽減するとの特例です。
 贈与者が65歳未満の親でも、住宅取得資金等の贈与については、3,500万円までは非課税であるとの特例の方は贈与者の年齢制限はありません。但し、こちらの方は平成17年12月 31日までの3年間に行われる贈与に限って適用できるとなっているので、あとしばらくで終わりですね。
 この制度を利用した場合の主なデメリットは
@不動産の所有権移転手続きの際に発生する登録免許税が相続なら0.2%なのですが、生前贈与だと1%です。(こちらは来年3月までの特例の上に、建物のみは適用要件に該当すれば0.3%に軽減されます)
A不動産取得税(県税)が相続なら課税されませんが、生前贈与であれば課税されてきます。(建物・土地ともに3%、但し土地は来年4月からは通常の4%になります)
 これには一定の要件に該当すれば税額の軽減措置がありますので、それらを活用されることをお奨めします。相続に較べて、一部諸経費がいくらか割増してかかりますが、生前に確実に財産の承継ができることのメリットは、かなり大きいものがあると思います。


297号 2006年1月15日

(10)有限会社を設立するなら今のうちです

知っていますか?
 会社を設立しようかと考えたとき、一番身近で使い勝手がよかった有限会社が設立できなくなることを。来年5月以降に施行予定の「新会社法」のもとではその有限会社が設立できなくなります。
 役員の任期制限がない、決算広告の義務がないなどの有限会社独自の大きなメリットを使えるのは今のうちです。平成17年6月に新会社法が成立しました。「新会社法」は今までの「商法」の一部と「有限会社法」などを現代日本社会に対応できるよう編成し一本化したものです。
 この法律改正は、既存の会社はもちろんこれから会社を設立しようと考えている方にとっても、非常に大きな改正です。新会社法の施行は先程も述べたように来年5月以降の予定です。

新会社法の大きなポイント
 「新会社法」施行後は、有限会社制度がなくなり株式会社に統一されることになります。つまり、有限会社は設立することができなくなります。既存の有限会社は「特例有限会社」として存続でき、株式会社へ変更することもできます。
 現行の商法及び有限会社法では「最低資本金制度」により株式会社は1000万円以上、有限会社は300万円以上の資本金が必要です。(別途特例で1円会社と言われるものができますが、5年以内に資本金の増資が必要です)しかし、新会社法では最低資本金の規制がなくなります。
 株式会社を設立するには、資本金の外に設立時の人数にも要件がありました。取締役3名、監査役1名の最低4名いないと資本金はあっても株式会社は設立できませんでした。しかし、新会社法では取締役1人でも設立できるようになります。取締役の任期も最長10年までできるようになります。
 今までは、同一市町村内では同じ商号(会社)や類似する商号では、同一の事業目的では会社を設立できませんでした。しかし、唯一同一の住所では同一の商号による会社を設立できないだけになるので、事前の「類似商号調査」がいらなくなったり、「払込金保管証明書」がいらず、「銀行の残高証明書」で資本金の証明ができるようになったりと設立手続きが簡単になります。

これにより、平成18年3月までの使い勝手のいい有限会社の駆け込み設立やら設立しやすくなる株式会社で、個人業から法人化したり、或いは起業される方が増えるでしょう。また、有限会社から株式会社へ組織変更されるところも増えるでしょう。


301号 2006年2月12日

(11)会社設立にも電子化(IT)の波が

 先月号では、今年5月以降に施行予定の「新会社法」の主な法改正について述べました。今月号では、現代、私たちの日常身の回りには電子化だ、IT化だと溢れていますが、実際会社設立する際にもその波が押し寄せてきていることについて触れてみたいと思います。
 会社を設立する場合、絶対にかかる費用があります。これは法定費用と言われるものですが、この法定費用は、設立手続きを自分で勉強して全部自分でやったとしても絶対にかかる費用です。
 主な法定費用には、会社設立するときに最初に取り掛かる、会社の憲法ともいうべき「定款」を作成し、公証人による認証を受ける際にかかる手続き費用とその設立登記申請時にかかる費用があります。定款認証手続きにかかる費用は、定款に貼付する収入印紙代4万円と認証手数料5万円です。この「定款認証」に熊本でも昨年4月から、電子化(IT)の波が・・・。
 定款を紙作成し公証人による従来の認証手続きの替わりに、作成者から公証人へとその一連の手続きを電子上で行うことによって紙として存在する場合に本来貼付しなければいけない収入印紙4万円がいらなくなるんです。
 それなら、この電子認証手続きを定款作成から自分でやれば、一番設立費用を安く抑えられるじゃないかと思われるかもしれませんね。
 しかし、この電子認証手続きをするには、設備投資が必要なんです。あなた自身の電子証明書を取得したり、必要なソフトを購入したりしなければいけません。その設備投資の費用は、10万円にもなります。4万円の収入印紙を節約するために、10万円の設備投資をするのは1回しかしない起業予定者にとっては効率的とは言えません。
 だから、やはり定款作成から電子認証対応には、そのシステムを導入している専門家にお任せされるが一番手間も省けて安心の上に、安上がりだということです。
 最後は、自己宣伝的になってしまいましたが、こんなところにもその波が押し寄せてきているんだということを、これから「新会社法」のもとで個人業から法人化したり、或いは起業される方が増えると予測されるこの時期に知っておいて得する身近な話題として取り上げてみました。


305号 2006年3月12日

(12)離婚をするための方法

 何らかの原因で離婚を考えたとき、夫婦間での十分な話し合いによって双方が合意して離婚する協議離婚は、一番簡便な方法と言えます。協議離婚は、市町村役場に「離婚届」を提出し受理されたら成立します。しかし、夫婦の一方が離婚に同意しない場合は、協議離婚はできません。
 このような場合には、家庭裁判所に調停を申し立て、そこで調停委員を交えてさらに夫婦が話し合いをします。ここで、双方が合意した場合には、離婚が成立します。いわゆる「調停離婚」です。
 この調停が不成立に終わった場合、家庭裁判所が独自に判断して調停に代わる審判を下す場合があります。それが確定すると離婚が成立します。「審判離婚」です。
 さらに、調停不成立で審判がなされなかった場合や審判に不服で異議申し立てした場合には、地方裁判所に離婚訴訟を提起できます。そこで、離婚を認める判決が下されれば、離婚が成立します。「裁判離婚」ですね。
 このように4通りの離婚方法がありますが、約9割の夫婦は簡単な手続きでできる「協議離婚」の方法で離婚をしています。
 しかし、離婚に家庭裁判所や地方裁判所が一切関与しない「離婚協議」の方法をとる場合でも、離婚後トラブルが発生しないように、十分に話し合いをしてその内容をきっちりと文書化しておくこと、すなわち「離婚協議書」を作成しそれを公正証書化しておくことが、後々後悔しないために不可欠と言えます。
 この協議書の中で取り決めておくことに、子どもがいた場合の親権、監護権、面談交渉権、養育費、それに財産分与或いは相手に非がある場合の慰謝料などがあります。問題、相談内容としてこれらのことを離婚前にきちっと文書化してないことによるトラブルが実に多いのが現状です。
 相続などを取り上げたときにも記載したように、この問題でも万一に備えて事前に「文書化」しておくことがあなたを守ることになるのです。
 一時の感情だけでただただ早く離婚したい、その場から逃れたいと思って上記のようなことをおろそかにしていると後悔することになりますよ。


309号 2006年4月9日

(13)離婚するにあたって

  民法では、裁判上の離婚原因として次の5つの原因が挙げられています。

配偶者の不貞行為
・配偶者からの悪意の遺棄(生活費を入れなかったり、正当な理由のない別居等)
・配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
・配偶者が強度の精神病で回復の見込みがないとき
・婚姻生活を継続しがたい重大な事由(再三の暴行・虐待、家庭の放置、浪費、性格の決定的不一致等)

 離婚するときの主な取り決め事項は次のとおりです。

親権者の決定
・未成年の子に代わって子の固有名義の財産を管理したり、子が法律行為を行う場合に法定代理人として子に代わって契約するのを父母のうちどちらがなるか。

監護者の決定
・子が一人前の社会人になるように育て教育し、しつけをするのを父母のうちどちらがするか。一般的には、親権者となった方が一体的に監護者にもなります。親権者が決まらない場合には、「親権者指定の調停・審判」を家庭裁判所に・申立することができます。

養育費の決定
・通常は収入の多い方の親、子を引き取らなかった親が負担します。月額1人あたり3〜4万円が平均です。その子が成人するか大学卒業するまで支払います。養育費の支払額や支払方法が決まらない場合には、「養育費の請求の調停」を家庭裁判所に申立することができます。

面接交渉の決定
・子を引き取らなかった親も原則として子と会うことができます。

戸籍と氏の決定
・離婚後、原則としては旧姓に戻り、子がいなかったら婚姻前の父母の戸籍に戻ります。子がいて親権者となったら旧姓で筆頭者となり新戸籍を作成します。但し、子も旧姓に変更するには家庭裁判所の許可が必要になります。離婚から3ヶ月以内に届出をすることによって結婚していたときの姓を継続することもできます。

財産分与
・対象となる財産は、夫婦の共同名義の財産のみならず、一方の名義になっている財産も婚姻生活の中で協力して築いてきた共有財産として含まれます。財産分与の請求権は、離婚のときから2年経過してしまうと請求できません。

慰謝料
・どちらかに何らかの責任がある場合に請求できます。慰謝料の請求権は、離婚のときから3年経過してしまうと請求できません。


313号 2006年5月14日

(14)離婚をするための方法@

 離婚を考えたとき、一番簡便な方法は夫婦間での話し合いによって双方が合意して離婚する協議離婚です。しかし、夫婦の一方が心情的、金銭的な面で離婚に同意できない、したくない場合も結構あります。このような場合には、家庭裁判所に調停を申し立て、そこで調停委員を交えてさらに話し合いをすべきです。
 近年多くなってきている「離婚調停」の内容は下記のとおりです。この調停申立書の提出先は、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立にあたって必要なものは、申立書、収入印紙(1,200円)、郵便切手(800円分)、夫婦の戸籍謄本、住民票です。調停は、家庭裁判所の調停室で行われます。

 申立人と相手方は別々の待合室に案内されます。最初に申立人が調停室に呼ばれます。男女2名の調停委員から、調停申立までの経緯と、要望事項を質問されます。(家事審判官、書記官は調停調書を作成する場合に、調停室に来ます)次に相手方も同様に調停室に呼ばれて聞き取りをされます。

 双方が希望すれば同席して話し合いをすることもあります。このやりとりを数回行って、まとまらない場合は、次回期日を決めます。この先もまとまりそうにない場合は、調停不成立となり「調停不成立の調停調書」を作成してもらい、地方裁判所に離婚訴訟を提起することができます。
 調停にかかる時間は、通常2〜3時間程度です。話し合いがまとまった場合は、審判官が調停条項を読み聞かせて「それでいいです」という確認が取れれば、調停調書が作成されます。調停調書には、申立人や相手方の署名捺印は不要です。この調停調書には、確定判決(裁判をして得た判決文)と同様の効力がありますので、相手方が約束を履行しない(調停条項どおり支払わない)場合は、給与の差押えなどの強制執行をすることができます。

 一番簡便な方法である夫婦間での合意による協議離婚(その内容を公正証書化していればよい)よりも、万一相手方が履行しないことに備える意味などもあって、申立てる際にさほど費用負担がなく「効力のある文書」が得られる、調停離婚をしておくことがよりあなたを守ることになるのです。


317号 2006年6月11日

(15)離婚をするための方法A

 ある程度長く婚姻生活をしていた夫婦間で離婚を考えたとき、その結婚生活の中で協力して築いてきた共有財産があったりします。それらの財産は、夫の名義になっていることが多いのですが、実質は「夫婦の共有財産」と考えその持分を清算・分配して公平を図ろうとすることを財産分与と言います。
 但し、夫婦それぞれが結婚前から有していた財産や結婚前、結婚中に相続等によって得た財産は対象外です。
 財産分与の額やその支払方法については、当事者の話し合いによって決めます。
話し合いが不調に終わった場合には、前回お話ししたように家庭裁判所への「調停の申立」をすることができます。
 財産分与としてどのくらいの額を請求できるかは、現実にどれだけの財産があるかに左右されますし、財産分与の割合は、財産の取得や維持に対する夫婦の貢献度合いによって決まったりします。
 専業主婦の場合でも「夫の働きが大きいのは妻の働きが大きいからでもある」とされ、最近の家庭裁判所は、主婦の貢献度を大きく見てくれる傾向にあります。 
 財産分与額が夫婦の共有財産の清算・分配として社会通念上相当な額でしたら、贈与税は課税されません。しかし、不動産を分与した場合には、その不動産を与えた側(一般的に夫側)には「譲渡所得税」が課税される場合があります。
 財産分与は、あくまでも現実に存在する財産を分け合うことなので、離婚の原因を作った側であっても請求することができます。慰謝料とはまったく別物です。
財産分与の請求は、離婚してから2年が経過してしまうとその請求権がなくなります。
 また、夫名義で所有していた不動産を離婚後に、第三者に売却し、費消してしまったりしたら請求できません。だから、出来る限り財産分与する財産があったら、解決してから離婚すべきです。


321号 2006年7月9日

(16)離婚をするための方法B

 慰謝料請求は、前回号でお話しした財産分与とは異なって、どの夫婦の場合でも必ず発生するものではありません。慰謝料は相手方に離婚の原因を作った責任がある場合に請求することができます。
 例えば、相手方の不倫や暴力が原因で離婚せざるを得なくなった場合など、明らかに夫婦の一方に離婚の責任がある場合などです。慰謝料の額やその支払方法などについては、夫婦間の話し合いによって決めます。ととのわない場合には、これも家庭裁判所に「調停の申立」ができます。慰謝料の請求期限は、離婚から3年以内です。離婚の原因が不倫による場合には、不倫相手方にも慰謝料の請求ができます。
 もうひとつ。離婚前の別居中でも、生活費を相手方に請求することができるのを知っていましたか?「婚姻費用分担請求」と言うものです。夫婦が生活していく上で必要となる費用を婚姻費用と言います。具体的には、日常の生活費、衣食住の費用、医療費、子供の養育費などです。
 婚姻費用分担とは、夫婦が互いに婚姻費用を負担し合うことです。通常は、同居し夫婦の財布も一緒なので、この婚姻費用の分担について特に問題は起こりません。問題は、別居中の場合です。別居すると、生活費を支払わなくなったり、支払わなくてもいいんだと思い違いしている夫がいます。別居していても、離婚するまでは夫婦なので同居中と同じように婚姻費用を分担しなくてはいけません。
 別居中婚姻費用を支払わない場合には、家庭裁判所に「婚姻費用分担の調停申立」をすべきです。調停での話し合いがまとまらなかった場合には、家庭裁判所の審判を求めることになります。審判では、裁判所が調査し、適当と思われる婚姻費用の支払いを命令することになります。万一、調停や審判で決められた婚姻費用を支払わなかった場合には、裁判所に申立て、夫の財産に強制執行をかけることも可能です。
 妻が専業主婦などで収入がゼロのときなどは、調停の成立等を待っていたら、当面の生活費にも困るような場合には、応急処置として、「審判前の保全処分」を申立て、取り敢えず結論がでるまでの間、婚姻費用を仮に支払えと決定してもらうこともできます。このような身近な法律を知っておけば、我が身を守ることにもなりますね。


326号 2006年8月13日

(17)離婚をするための方法C

 離婚をテーマに、シリーズ12〜16まで過去5回にわたってあらゆる角度から取り上げてきました。今回最後に今巷で話題になっている現状をお伝えしてこのテーマを終わりたいと思います。
 私が思うに、離婚を考えるとき、性格の不一致とか浮気・不倫等による心情的な面と、離婚した後の生活力的な面が大いに係っていると思います。心身的にどうしても離婚したい、しかしその後の生活力のことを思うとどうしても思いとどまってしまう。結婚暦が短い比較的若い夫婦間よりも、結婚暦の長い熟年夫婦によくある傾向だと言われています。
  子どもが成人するまでは我慢していたが、子どもが一人前になったそのときには、既に妻は収入をある程度得る道が極端に狭くなっているため、婚姻生活を継続せざるを得ない状況に今まではなっていたと思います。しかし、その熟年夫婦の間で、離婚を考えるときに問題となっていたその生活力を保証する法律改正があり、来年4月から施行されます。離婚時の厚生年金の分割制度です。
 サラリーマンの夫との婚姻期間中の、年金を妻に分割するという制度が新設されたのです。専業主婦や、共働きの夫婦が離婚した場合、妻の年金額が極端に少なくなることがあり、公平に役割分担して家庭を築いてきたのに不公平だとの考え方から、婚姻期間中の夫婦の年金合計を2分の1まで分割して妻に支給するという制度です。
 平成19年4月1日以降に離婚した場合に、離婚後2年以内に請求した場合に適用になります。国民年金加入者の場合は、もともとが個人単位で加入していますので、この分割請求に関係なく、それぞれが平等に受給することができますので、この制度はあくまで厚生年金受給予定者の夫婦間にいえることです。
 離婚統計をみると、50歳前後の熟年夫婦の離婚率は、昭和50年では5.8%であったものが、平成10年には16.9%だそうです。冒頭に言いましたように、巷では来年4月を待ち望んでいる離婚予定者が全国に沢山いらっしゃるそうです。それで、来年にはさらにこの比率が上がることでしょう。


329号 2006年9月10日

(18)親の残した借金は相続しなくてもいいのか?

 以前このシリーズ第8回で一部取り上げたことがあるのですが、最近このような事案を受けましたので確認の意味を込めて改めて触れてみたいと思います。
 父親が商売に失敗し、借金を残して亡くなられました。父親の唯一の資産であった不動産の価格と、借金の額とではどちらが多いのかはっきりわからない。借金が多かった場合でも、返済しなければいけないのか?といった内容です。
 法定相続人は被相続人(この場合は父親)の遺産を相続すると、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も承継することになります。つまり、相続すると借金もついてまわることになります。自分のせいで背負った借金ではないのに、これを支払わなければならないのです。相続人にとっては気の毒です。そこで、民法では相続放棄と限定承認という制度を設けて相続人の保護を図っています。
 どんな制度かというと、先ず相続放棄とは、相続による遺産の承継を放棄する制度です。相続人各自が自由にできます。次に、限定承認とは、被相続人のプラスの財産の限度内で被相続人が残したマイナスの財産(借金)についても承継するという制度です。この限定承認は相続人各自が自由に行なうことは出来ずに、相続人全員が共同で行なう必要があります。
 これらの手続きを利用するには、どちらの制度とも、被相続人の死亡を知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申し立てて行います。相続人が、遺産の全部または一部を処分してしまったり、3ヶ月の期間を過ぎてしまったりした場合には相続放棄や限定承認はできなくなりますので注意が必要です。
  お葬式などでバタバタしてますので、3ヶ月はあっという間に過ぎてしまいます。気づいたときには3ヶ月が過ぎていて、相続放棄が利用できずに借金を負う羽目になったなどということがないように、知識を身に付けられ万一、自分の身の回りに発生したときの際には活かして下さい。
 この相談者の方の場合には、幸いにも相談が早くて期限内に財産の全容を把握の上、相続放棄の手続きを相続権の及ぶ親兄弟まで次々にすることによって相続人全員が借金から免れることができました。早めの対応が我が身を助けた事例でした。


333号 2006年10月8日

(19)ネットオークションによる詐欺への対応について

 最近は、自宅に居ながらにしてオークションに参加して、欲しい品物を手に入れることができるネットオークションが人気を集めています。ところが、それに並行して「お金を振り込んだのに品物が届かない」とか「届いた品物が出品されていた品物と違う」などといったトラブルが続発しています。このような被害にあった場合、出品者の身元がはっきりしているならば、内容証明書を出してきちんと対応するように催告したりして解決をはかることが有効な手段だと言えます。
 また、出品者が悪質で、最初から品物を引き渡すつもりもないような場合には、詐欺罪にあたりますので、警察に被害届を出すこともできます。しかし、このような者は、身元を最初からはっきり出してくることは先ず考えられません。出品者がどこの誰だかわからない場合に、どう対応するかです。先ず、一般的なオークションサイトでは、出品者や落札者を特定するためにID番号が割り振られています。
 これを手がかりに、サイト運営者に出品者の情報を問い合わせることをお勧めします。また、メールでの注文のやりとりがある場合には、出品者のメールアドレスを手がかりに、出品者が契約しているプロバイダ−に対して、契約者情報の開示を求めることが一応有効な手段です。しかし、それがフリーメールの場合には、プロバイダーが契約者情報を把握していないことが多いです。
 上記のような手段で解決しない場合には、オークションサイトの補償制度を利用できるかを考えて見て下さい。大手のオークションサイトでは、必要書類を準備し、要件を満たした場合には、一定の補償金が支払われる仕組みになっています。そもそも、ネットオークション詐欺の被害に遭わないようにするためには、エスクローサービス(業者が出品者と落札者の間に入って、品物や代金の引渡しがきちんとされることを確保してくれる)してくれる業者を利用することをお勧めします。
 また、銀行振込や郵便振替等を利用する場合には、相手方の住所や固定電話番号を確認し、身元をしっかりと把握しておくことが我が身を守ることになります。
IT時代の便利な仕組みを快適に利用する場合にも、基本的なところはアナログと一緒ですね。


338号 2006年11月12日

(20)生命保険金は相続財産になる?

 例えば、夫が亡くなり後妻との間に子どもがいなくて、前妻との間には子どもがいるような場合、受取人を現在の妻に指定して生命保険をかけていて、支払われた保険金は前妻の子どもと相続分にしたがって分けなければいけないのでしょうか?
 生命保険金が相続財産となるかどうかは、受取人がだれに指定されているかによって変わります。生命保険の受取人が亡くなった本人であった場合、つまり自分を受取人として自分に保険をかけていたときはその生命保険金は相続財産のひとつとなります。これに対し、受取人が別に指定されているときは、生命保険金は相続財産とはならず、その指定された受取人の固有の財産となります。
 ところで、相続は、被相続人の死亡したときの財産を基準に分配されますが、生前贈与(遺贈も含む)されている人がいるときは、その点を考慮しないで分配すると不公平になります。そこで、民法では、法定相続人のうちで、生前贈与を受けている人がいるときは、この生前贈与分の財産も相続財産に加えてから、遺産の分配をすることになります。

この生前贈与分のことを特別受益といいます。例として、父親が死亡し、相続財産が5000万円、相続人は母親と長男だけで、長男は以前に2000万円を贈与されていたとした場合、5000万円を母親と長男で法定相続割合どおり2500万円ずつ分けるのではなく、相続財産に生前贈与分を加算した7000万円を半分し、3500万円を母親に、残りの1500万円を長男に分配することになります。
 そこで、生命保険金はどうなるのでしょうか?生命保険金は上記で述べたような場合には、相続財産ではないものの、生前贈与のときと同じく、特別受益にあたるのではないかというような見解もありましたが、平成16年10月29日の最高裁判所の判例で「生命保険金は特別受益ではない」と結論づけられました(但し、例外の発生余地あり)。つまり、あなたを受取人と指定した生命保険金を相続財産に持ち戻して、相続人同士で分配する必要はありません。
 身近な法律を知っていれば我が身を助けることにつながりますね。
 このシリーズ、今回で20回目となりました。ここでひと区切りさせていただきます。このシリーズを通して、ひとつでもふたつでも皆様の日常生活の中で何かの形でお役に立つことがありましたら幸いです。r

 
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