三里木区  たわらや酒店  宇野功一B


562号 2011年6月5日

(61)地酒を飲んでエールを贈ろう

◆震災に負けるな!
 3月11日に東日本大震災が起こりました。マグニチュード9.0、最大震度7を記録した未曾有の大地震でありました。地震の揺れも大きかったのでしょうが、直後に発生した大津波で被害がさらに大きくなりました。それに追い打ちをかけるかのような福島原発による人的災害。災害の復旧の目途が一向に見えない空前絶後の大惨事と化しています。
 そんな中、先日、鞄部美人(岩手県二戸市)専務の久慈浩介さんが、テレビに出演してこう訴えていました。「災害が発生し、全国から多くの救援物資や義援がきたことはたいへん有り難い。震災の影響で、各地のイベントやお花見などが自粛されることは、私たち酒蔵にとってさらなる二次的な災害であります。お酒は人々に楽しさ豊かさ明日への活力を生み出すものです。東北の酒を飲んでいただき、私たちも東北から被災地へ復旧への支援を届けたい」このような内容のメッセージでした。

★久慈浩介さんのメッセージ ⇒ http://youtu.be/UY0FtSqrMBc

 酒は1次産業である農家が米を作り、2次産業である酒蔵が酒を醸し、3次産業である地元酒卸業社や酒屋がお客様へ販売するという地元に根差した6次産業です。
 久慈浩介さんは、私が学生時代からの知り合いです。やがて20年の付き合いです。宣伝するわけではありませんが、彼が震災前に醸した酒があります。ご紹介します。この酒に限らず、酒を飲む機会がある時は、東北の酒を飲んで頂きたいです。

◆南部美人 美山錦 順吟〜流転〜
 南部美人 新シリーズの一つ「流転」(るてん)。地元・岩手産の美山錦をモチーフに伸び伸びと表現された酒質です。美山錦の持つ米をさらに進化させるということで「流転」。ラベルのデザインは、このお酒の香味をイメージしたものです。今までにない斬新さ、奇抜さがあります。

◆味わいは・・・テースター 宇野功一
  柔らかな酒質が真情の「南部美人」。流転もそれを思わせる酒質です。酒質がデリケートであります。ラベルに「含み香」と表示してあるのですが、「含み香」が特徴かというと、そうでもなく、素直で上品な含み香です。全般的にキリッと辛口。白ワイン感覚で楽しめる酒質。一日置いて飲めば、旨味が増す、そんな不思議さを持った酒です。

 南部美人・流転(るてん)1800ml・2940円
 お買い上げ頂いたうちの100円を、三里木商工繁栄会・義援金としています。


566号 2011年7月3日

(62)酒も食も五色の味わい

◆五色の短冊
 お馴染み文部省唱歌「七夕さま」の2番の歌詞は♪「五色の短冊、私が書いた、お星様キラキラ、空から見てる」ですね。
ところで、五色とは何色を表すかご存知でしょうか。
 これは、陰陽五行に由来します。五色とは、青(緑)→赤→白→黒→黄 の5色です。詳しくは、ここでは述べることを避けますが、これらの色は季節と方角を表すのです。
●青→季節は春→方角は東→青春→方角の守り神 青龍
●赤→季節は夏→方角は南→朱夏→方角の守り神 朱雀
●白→季節は秋→方角は西→白秋→方角の守り神 白秋
●黒→季節は冬→方角は北→玄冬→方角の守り神 玄武(亀)
●黄→季節はなく、中央、おのれ(己)を表現します。
 五色の短冊に願い事を書くというのは、春夏秋冬、東西南北に難がないように願ってのことなのです。
 余談ですが横浜の中華街の東西南北の門には、青龍、白秋、朱雀、玄武が祀られています。また、奈良の大仏様の東西南北には、持国天、増長天、広目天、多聞天(毘沙門さま)が祀られています。これらの神を四天王というのです。相撲の土俵の房(ふさ)も季節と方角を意味しています。

◆五色の食べ物・飲み物
 何気なく食べる普段の食事。実は、色どりを良くすることは、健康によい食事を摂ることにつながるのです。見た目の色で簡単に五色に分けることができます。
●青→緑黄色の野菜類→さわやかな香りの高い吟醸酒。
●赤→お肉類(牛肉、鶏肉、魚肉)→しっかりした味わいの純米酒。
●白→ごはん、麺類、パン(米・麦)→落ち着いた味わいの酒。
●黒→わかめ、海苔、椎茸、黒ごま→冬ごもり、お燗にして旨い酒。
●黄→卵、納豆、ゆば、レモン、みかん→熟成をした古酒。
 お弁当の色どりも、この五色に気を付けることで、栄養バランスが取れるのです。
 それぞれの素材で、マッチする酒も少しずつ違いがあります。順番に飲むとすれば、東南西北の順、つまり春夏秋冬の順で・・・
※香りの高い酒 → しっかりした味わいの純米酒 → 落ち着いた味わいの酒 → お燗にして旨い酒 → 食後には熟成した古酒※
という順で飲むと実に美味しいです。これはワインにも当てはまると思います。
 我々、日本人は古来より、色や季節を大切にしてきました。普段の何気ない生活の中に、日本人らしさの表現があります。今から食べるお料理の色のバランスを見て、今日飲もうとする「日本酒」や「ワイン」を選ぶのも楽しいかもしれませんね。


570号 2011年7月31日

(63)土用の丑 鰻と酒の小話

時は明和5(1768)年、江戸は湯島。とある一人の鰻屋がいました。名は長介。両親に先立たれ、引き取られた鰻屋で、親父から筋の良さが認められ、生真面目で仕事熱心とあって、親父の一人娘と結婚して、鰻屋を継ぎました。深川の鰻商から、バリっと脂の乗った上質の鰻を仕入、頭を落とさずにまるごと一匹を料理。お頭付きの鰻の蒲は、ちょいとした大江戸の庶民の人気となっていました。皮目はパリッと少し焦げ目を付け、身はとても柔らかく、その身に浸み込んだ秘伝のタレがまた格別。野田の濃口醤油をベースにして、琉球渡来の黒糖と、神田明神そばの豊島屋の甘酒、味醂の代わりに肥後の赤酒を用いるのであります。
 そんな長介の鰻屋でも、夏場には鰻が売れないのでした。そんな時、鰻屋に平賀源内がやって来ました。
 「いらっしゃいませ」と長介はお辞儀をしましたが、いつもになく浮かない顔。それを察して、源内は訊ねました。他に客の居ない昼下がりでありましたので、長介はことの次第を語ったのでありました。腕組みをしていた源内が、しばらくして何かひらめきがあったのでしょう、明るい表情で、瞼を開きました。「いいか、長介。うなぎは『う』で始まる。そこで、夏の暑さの厳しい夏土用(立秋前の18日間)の『う』の付く丑の日に、『う』の付く食べ物を食べると夏バテしないと風潮してみろ。売れるぜ〜」それに付け加え、源内はこうも言いました。
 「風潮するにも、仕掛けが必要だ。拙者の知っている定斎売り(薬売)の連中に、鰻丼をご馳走しろ。夏バテ防止の秘訣は、定斎薬と鰻って江戸八百余町に風潮して廻ってもらうんだ」
 数日後、源内の知りあいの定斎売り数名が、鰻の長介の店(たな)に集まり、自慢の鰻丼が馳走されました。定斎売の連中を前に、源内は言いました。「いいか、土用の丑の日に、『う』の付く食べ物を食べると夏バテしねぇ、と風潮してくれ。うちの定斎薬と鰻が俺の夏バテしない秘訣だと囁いてくれ。それだけでいい」定斎売は、薬の入った細長い定斎箱を2つ、天秤棒に引っ掛けて、裏店の長屋まで隈なく売り歩く仕事。体の丈夫な元気な若者から、薬を買いたいというのが江戸の方々の思いがあり、定斎売の連中は、普段から体を鍛えることに精を出していました。源内のアイデアは、クチコミで広まりました。
 さて、この年の土用の丑の日は旧暦6月21日。五つ(午前8時)の鐘が鳴る前には、長介の鰻屋の前に長蛇の列が出来ていました。長介は、普段の6倍の300杯の鰻丼を拵えましたが、八つ(午後2時)の鐘が鳴る前には、完売となったのです。クチコミを上手に利用した平賀源内の仕掛けは成功し、土用の丑の日の鰻は、250年経った今では、日本人みんなが知っていることになりました。
 今年の土用の丑の日は7月21日と8月2日です。二回も丑の日がある年です。鰻を食べる時、私は雪洞貯蔵の酒と楽しみます。厳冬の時期に出来た新酒を、雪の洞窟の中に埋めて置き、暑中の時期に出して楽しむのです。粋な思考でしょ。鰻と美酒、これで猛暑を乗り切りたいと思います。


574号 2011年9月4日

(64)石高から分かる食糧自給率

◆米1石で1人が養える
 封建時代、全国規模で田畑の面積を測り、村や群・国ごとに米などの収穫量(石高)を調査したのは豊臣秀吉です。太閤検地といいます。その頃全国の米の石高は1850万石。1石はおよそ150sですので、277万5千トンということになります。
 そもそも、1石とは、大人1人が1年間に食べる米の量のことです。1日に3食、1食当たり1合食べるとします。
 1日×3回×1合×360日=1080合
 7合=約1s なので、1080合÷7合=154s(2.5俵)

 154sの米を食べていたということになります。宮澤賢治の「雨ニモ負ケズ」の一節に「一日玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ…」とあるように、現代人が考えるよりも多くの米を食べていたことは事実です。
 1石=150sの米を使って日本酒を醸造したとします。日本酒の度数が15%なので15%換算なら約180リットルの日本酒ができることになります。
 1石=10斗=100升=180リットルですので、1石の米から、1石の酒が生産されます。
 明治時代になって、s・メートル法が導入されました。しかし、日本酒や焼酎は、日常生活でも、勺・合・升・斗・石の尺貫法が息づいています。
 江戸時代、徳川幕府ができた頃、全国300余藩の合計石高は2125万石でした。その頃の日本の人口もおよそ2000万人であったと言われます。江戸時代は、新田開発が進みます。各藩の石高は年々増えるようになります。収量の増加に比例して、人口も多くなります。江戸末期には3185万石の収量があり、人口も3000万人程度でした。
 この瑞穂の国は、生産量が3185万石=約500万t。現在は減反・減反と叫ばれる中でも年間生産量は850万t。江戸時代の2倍の収量の米を造っても、6000万人が食べる量がやっと造れる程度です。日本の食糧自給率は今や40%を切ったと言われますが、6000万人の食べぶちしかない日本列島に1億2700万いるのだから、ある意味、食糧自給率100%を目指すのは無理なのかもしれません。江戸時代の260年間で1000万の人口増加。明治維新後の140年で約1億人の爆発的な人口増加。先人たちは、現在の日本人に、この国に住める人口と、食糧自給率の問題を示唆しているように思えます。


578号 2011年10月2日

(65)日本酒の日とひやおろし

◆10月1日は日本酒の日
 昨日、10月1日は「日本酒の日」でした。春に出来上がった新酒が、美味しくなる時期でもあります。
 酒という字は、「酉」(とり)に由来します。十二支の10番目は「酉」(とり)であります。また「酉(さけのとり)」の文字は、酒壺の形をあらわす象形文字で、酒を意味します。
 昭和40年以前は、酒税の関係からどの酒蔵も10月1日〜翌年9月30日を酒造年度として経営を行っていました。この年度を Brewery-Year(ブリュワリーイヤー)=醸造年度といいます。略してBY。日本酒のラベルの中に平成22BYなどと記載されている場合もあります。
さて、昭和53年、日本酒造組合中央会は10月1日を「日本酒の日」と定めました。太陰暦9月9日(現在の10月)は重陽の節句として、古人たちはこのころから清酒をお燗にして楽しみました。
◆『ひやおろし』について
 酒通は「日本酒は、ひやおろしが旨い」と言います。この時期から出荷される日本酒に「ひやおろし」と表示した商品を目にすることがあると思います。
 昨年の秋に収穫した米で、昨年の厳冬に酒を仕込み、春先に日本酒が出来上がります。出来上がった酒を土蔵の蔵のタンク(桶)の中に入れて、静かに熟成をさせます。梅雨が過ぎ、暑い夏が過ぎ、土蔵の蔵内の温度と、外気の温度の差がなくなるこの時期、日本酒は円熟味を増し、より美味しくなって参ります。古来より日本人は新酒を熟成させた日本酒を楽しんできました。この時期に円熟味を増す酒を「ひやおろし」というのです。
 ひと夏熟成した「ひやおろし」は円熟味を増し燗上がりします。この時期に獲れる秋刀魚(サンマ)は脂分も多く、刺身でも、塩焼きしてもとても美味しいですね。円熟味を増した「ひやおろし」をぬるめに燗を点けて一献。サンマの脂分と、日本酒の円熟したコクと旨味が合わさって、なんとも言えない味わいです。
 今年も日本酒の美味しい時期がやって来ました。


583号 2011年11月6日

(66)B級グルメと地酒の相関関係

◆B級グルメについて
 最近よく話題となっている言葉に『B級グルメ』があります。B級グルメを辞書で引いても出てきません。今後発行される辞書には掲載されるかもしれませんね。意味としては、安価で、普段(普通)の日常生活の中で食される庶民の飲食物で、しかも局地的な地方性を有するもの、と仮定できると思います。
 では、いつ頃からB級グルメの言葉が生まれたのかは分かりませんが、2006年に青森県八戸市で第1回全国B級グルメのイベント(Bワングランプリ)が開催されてから、B級グルメの露出度が以前よりも高くなったように思います。時代でしょうか。1980年代後半から1990年代前半にかけての日本は、バブル経済の時期、一種狂ったような経済活動が繰り広げられました。その後の反動で、ここ20年、低成長の時代に入ってしまいました。こんな時代背景が、日本じゅうにB級グルメのブームを喚起したのかもしれません。

◆B級グルメと地酒
 ぜいたくなものでなく、安価で庶民的でありながら、おいしいと評判なものがあるとすれば、それは『地酒』があると思います。地酒の中で、本来地元で旨いとされていた銘柄が、全国的に旨いという評判が広がる銘柄があります。
 江戸時代、全国的に美味しいと評価された日本酒は、灘酒でした。当時の江戸100万人の人口に対して、樽廻船によって100万個以上の4斗樽が運ばれたといいますから、凄いものです。灘酒の評判は、明治以降も続きます。明治後期には、健全に日本酒を仕込めるように、東京北区滝野川に醸造試験所が開設されます。隔年開催で、清酒品評会が開催されるようになりました。醸造試験所はこれまで経験的に醸造されていた酒づくりの世界が、科学的な理論で解明されていきました。短期間で醸造技術の向上が進んできた時代でした。
 庶民の味の嗜好も変わってきました。江戸時代は芳醇辛口の酒を好んだ武士、芳醇甘口の酒を好む明治・大正時代の庶民。維新後、日本酒は甘口傾向に進んでいきました。戦後も、日本酒はどんどん甘くなる傾向が続きました。そんな中で、淡麗辛口の酒を作り続けて人気となった地域や銘柄がありますし、お米を極限まで磨いて醸す吟醸酒は庶民が好んで飲み、クチコミで広がるようになりました。当時、吟醸酒は2級酒で販売されていました。価格以上に品質が高く、割安な酒質の地酒もまた、日本人である我々庶民がみつけたB級グルメではないかと思います。日本人の味覚は、きっと安価で庶民的なものでも、本当に美味しいものを見極める舌を持っているのだと思います。
 南北東西、違った気候風土、それに根差したそれぞれの地域の食材や調味料の多様性があり、それと同じように地域や風土に根差した地酒があります。味覚の多様なことも日本の魅力かもしれませんね。昭和の時代、地酒が庶民からクチコミで広まったことと、平成の現在のB級グルメ運動は日本人の味覚の感性が育んだ共通のものがあるように私は思います。


587号 2011年12月4日

(67)酒の縁 赤穂浪士と剣菱と菊陽

◆赤穂浪士と剣菱
 時は元禄15(1702)年。12月14日丑三つ時…。日本は、明治6年に、太陰暦を太陽暦に切り替えましたので、旧暦での話ですが、12月14日は、大石内蔵助良雄率いる赤穂浪士が、吉良上野介邸に討ち入りした日です。浅野内匠長矩の敵討ちを果たしたのです。
 赤穂浪士は、現在の神田駅近く、日本橋本町4丁目に逗留しており、ここから、吉良邸のある両国まで、隅田川を渡って歩きます。出立の前に、浪士の堀部安兵衛はそばを食べ、出立の時に杯を傾けたとされる酒が、灘の生一本『剣菱』であったと言われています。
 剣菱のロゴマークは、すでに江戸時代には一般的になっていました。日本初のデザイン意匠だったかもしれません。剣菱のマークの剣と菱は、陰陽、男女、矛盾を表現したものと言われています。

◆頼山陽と剣菱
 剣菱愛飲家と言えば、江戸末期の思想家・頼山陽が有名です。山陽は剣菱を飲み「兵は用ふべし、酒は飲むべし」と絶賛しました。山陽はまた諸国を行脚しています。大津街道杉並木の道を歩き、「大道平平砥も如かず。熊城東に去れば総て青蕪。老杉夾路他樹無し。欠処時時阿蘇を見る」と詠っています。現在では、地元、菊陽自動車学校の前に、頼山陽記念碑があり、バス停の名前にもなっていますね。菊陽町の名前の由来は、詳しくは分かりませんが、山陽の「陽」と菊陽の「陽」が同じであります。12月14日の討ち入りを前に、赤穂浪士と剣菱と菊陽の酒縁を感じるのは、私だけでしょうか…。
※日テレ系「新春ワイド劇場」は「忠臣蔵」(舘ひろし・内野聖陽)だそうです。
(平成24年1月2日放送)


591号 2012年1月1日

(68)初夢 今年から熊本の酒が台頭する?

◆謹賀新年に思うこと・・・
 昨年3月11日の未曾有の大震災。多くの方々が被災をされました。被災をして水も食糧もままならない状況の中で、東北の方々は整然として、普段の時のように過ごす姿が映像で映し出されました。同じような地震や津波が外国で起こった時、暴徒化した人々が店を襲撃して強盗や略奪をしている映像を見た記憶があります。同じ状況がまさに日本、東北で起りましたが目にした映像はそれとは全く逆で、整然と過ごす姿でした。私は東北の方々の辛抱強さを感じましたし、敬服しました。
 「耐える」「忍ぶ」という行為は言うのは簡単ですが、実践することはたいへん難しいことです。震災の後、被災された方のみならず、私たちみんなは、少なからず耐え忍び、そしていくばくかのお金を募金しました。そのため昨年は、日本人の「絆」を感じた年でしたね。
 今年は辰年。飛躍の年であります。施しに「報いる」ための仕事を、日本じゅうみんなで取り組む。そんな年であって欲しいと願います。報恩感謝、ひたむきな生き方を目指したいと思います。

◆景気循環と還暦
 バブル景気が終わって20年が過ぎます。そろそろ景気が浮揚しても・・・と願う今日この頃です。
 景気には循環があるといわれます。好景気があれば、不景気もある。これを波に例えて、景気の波動ともいいます。一年の中にも「盆・暮が好景気で、2・8月が不景気」のような短い循環もあれば、もっと長期の循環もあります。約10年という循環があると提唱したのはフランスの経済学者 ジュグラー。約20年という循環があると提唱したのはアメリカの経済学者 クズネック。ロシアの経済学者 ゴンドラチェフは最も長い60年という循環を提唱しています。還暦と同じというのも、経済を作り出す人の性(さが)ゆえであるからでしょうね。であるならば・・・。

◆今年から熊本の酒が台頭する?
 約60年前、昭和28年に、熊本市島崎にある「香露」の酒蔵で、野白金一博士によって、後の熊本酵母が発見されました。香味の整った優良な酵母で、一時期は、日本酒の大半は熊本酵母で仕込まれた時期もありました。現在でも約半分の日本酒は熊本系の酵母で仕込まれています。
 お酒の甘辛や香味は、景気に左右されます。(酒おもしろ小話1参照)とすれば、60年前の香味がブームになる可能性もあるのでは?
 熊本の酒が、今年から日本じゅうに台頭してくれたら・・・。60年前の趨勢を再び。そんな年になってもらいたいと思います。そのためには、先ずは一献。今年は「熊本の酒で乾杯」しましょう!!


595号 2012年2月5日

(69)大人のバレンタイン酒 〜 日本酒にもロゼがある〜

■大人のバレンタイン酒…
 もうすぐバレンタインデーです。最近はチョコレートではなく、お酒をプレゼントされる方が多くなりました。今回は、バレンタインのプレゼントにおススメしたい日本酒をご紹介します。

 

■日本酒にも「ロゼ」がある
 大きめのワイングラスにお酒を注ぐ。何も言わなければ、誰もがロゼワインと思うでしょう。「これは日本酒のロゼです。」と説明すると、「え〜、うそ〜。うそでしょう〜」と言って信じてくれない。
  ロゼ色の日本酒を開発したのは佐賀の天吹酒造の木下壮太郎専務(兄)と木下大輔製造部長(弟)。天吹酒造の近くには、日本古代の集落跡であった吉野ヶ里遺跡があります。吉野ヶ里で、古代人たちが栽培した黒米が発見されました。黒米を使い、日本酒が出来上がる数日前のモロミに、黒米を少量加えます。黒米表面のアントシアニン系色素がモロミに溶けだし、美しいロゼ色を生み出してくれます。


■健康志向そして美味
  アントシアニン系色素は、赤ワインに含まれるポリフェノール類に属し、血管を保護して動脈硬化予防に効果があり、老化や発がんを防止することで広く知られた物質です。還元力(酸化されにくい)の強い物質です。
 酵母はナデシコの花の中から抽出されたナデシコ花酵母を使用。とても芳しい吟醸香が広がります。とてもフルーティーな香味のお酒は、発売2004(平成16)年以来、多くの方々を魅了してきました。
 これまで日本酒と縁遠かった洋食料理店でも大活躍。また、バレンタインのプレゼントとして大人気です。
 2000年の時を越えて、古代黒米が現代の吟醸酒とコラボして、新しい酒文化を生み出しています。


599号 2012年3月4日

(70)最近話題の『塩麹』とは

◆最近話題の麹(こうじ)
 昨秋より麹(こうじ)の話題をよく耳にするようになりました。
 麹とはそもそも何ぞや?麹とは麹菌とも呼ばれます。麹菌はカビの一種です。増殖するために菌糸を伸ばし、菌糸の先端部では、アミラーゼ(糖化酵素)や、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)を作り出します。麹菌が作り出したこれらの酵素を巧みに利用して我々の祖先は、味噌、醤油、酢、日本酒、焼酎、泡盛、漬け物、各種調味料を作り出してきました。それぞれの地域ごとに、それぞれの気候風土にあわせて、食文化を豊かにしていきました。
 麹が注目されるようになったことは、とてもよいことであると思います。

◆塩麹とは…
 最近話題の塩麹。江戸時代、各地の文献で登場します。それぞれの家庭で使われていた調味料でした。
 東北地方では、「三五八漬け」(さごはちづけ)が塩麹の原点であろうかと思います。
 三五八とは、塩を3、米麹を5、蒸した米を8の分量比で混ぜ合わせ、その混ぜ合わせた床の中に、夏ならばキュウリやナス、冬ならば大根やカブ、人参を漬け込んだものが三五八漬けです。お肉やお魚も漬け込んだものもあります。  糠床と同じように、床に漬け込みますが、糠床のように毎日撹拌する必要がなく、糠床のように臭いもきつくありません。忙しい主婦の方々にも助かる床です。

◆ご家庭でできる簡単、塩麹の作り方
【材料】  塩 …100g   米麹…300g   水 …適宜
【作り方】
@上記材料を混ぜ合わせ、ひたひたになるまで水を入れる。
Aたまにかき混ぜる。
B一週間程度で完成。米粒が甘酒のようにトロトロになったらOKです。冬場は温度が低いので10日程度かかります。

◆お知らせ
 銘醸蔵の吟醸酒を造る吟醸米麹を少量お分けします。お問い合わせください。米の芯まで削った米を原料に造った麹米は、究極の米麹です。究極の塩麹ができます。
 次回は塩麹をつかった簡単酒肴のレシピあれこれを書きます。乞うご期待!!

問合せ たわらや酒店  п@232−3138


603号 2012年4月1日

(71)最近話題の『塩麹』を使った酒の肴

★きゅうりの塩麹漬け★
@きゅうりを切り、適量の塩麹をふりかける。
A一晩(半日程度)冷蔵庫で放置し、できあがり。
一夜漬けです。きゅうりに限らず、いろんな季節の野菜で簡単にできます。酒の肴になります。

  

 

★魚の切り身に塩麹★
@切り身の魚に塩麹と日本酒をまぶして1時間程度放置する。
A表面の水分をキッチンペーパーで取り除き、フライパンやグリルで焼く。表面は焦げやすいので注意する。
 今回は鰈(かれい)と鯵(あじ)の一夜干しに塩麹をまぶしたものを焼きました。少し焦げてしまいましたが、普通に焼いたものと比較して、身離れがよく、身が柔く、旨味がたっぷり。たいへん美味しくなりました。お酒の肴にピッタリです。

 

 

 

★納豆に塩麹★
 納豆に塩や醤油の代わりに塩麹を使う。
 朝から簡単にできます。新潟の魚沼地方には、麹米入りの納豆製品があります。

 

 

◆8時間で塩麹をつくる
 塩麹は、麹米と塩と水を入れて、常温で7〜10日の日数を要します。
 「塩麹を短期間に造りたい〜」という方には、次のような方法で、8時間で塩麹を造ることができます。
  炊飯器に麹米と塩と水を入れ、保温モードにして、濡れた布巾を上に被せて、炊飯器の蓋は閉めません。(解放状態)
 ちょうど、甘酒を造る方法です。塩麹は簡単に言えば、甘酒に塩を混ぜたものです。常温ではなかなか糖化するスピードが遅いのですが、温度を50℃程度に高めてやりますと、糖化がどんどん進み、塩麹が8時間程度で完成します。
 ここでポイントなのが、60℃を越えないようにするということです。麹菌が作り出したさまざまな酵素はタンパク質ですので、65℃以上になると、構造が変遷して、さまざまな物質を分解する働きを失ってしまいます。

◆塩麹の保管方法
 塩麹は、塩の代わりに使う調味料と思って頂くといいです。完成した塩麹はコーヒー瓶や醤油の実(しょんしょん)などが入っていた空瓶をきれいに洗浄して入れます。冷蔵庫で保管した場合、半年は日持ちします。


611号 2012年6月3日

(72)これぞ無添加の極 蔵付酵母で作った日本酒

 

■蔵付酵母とは
  酵母という生き物は目には見えません。自然界には、酵母が浮遊しているのです。空気中にも酵母は生きた状態で存在します。これらの酵母を「野生酵母」といいます。野生ですので、素性がはっきりしません。野良犬ならぬ「野良酵母」といったところでしょか。
 酵母という生き物は単細胞で、分裂して仲間を増やしていきます。適度な温度、適度な糖分を含んだ液体に、空気中を漂っている「野生酵母」が漂着すると、野生酵母はアルコール発酵を始めるのです。
 古代、我々の祖先は、野生ブドウやさまざまな果物を搾った液体を壺に入れて置いていました。その壺に酵母が入り込んで、自然と発酵をして酒が生まれました。この様な原始的な酒を好んで飲んだようです。
 日本酒蔵、焼酎蔵、味噌蔵、醤油蔵、酢を造る蔵には、それぞれの蔵ごとに違った性質を持つ酵母が住みついています。ご存知でしたか?これらは「野生」ではなく、素性のしれた立派な酵母たちです。
 蔵ごとに微妙に香味が違うのは、これらの蔵付の酵母が香味を左右するためです。近代的な醸造技術が、明治以降に日本にもたらされる前の時代、つまり江戸時代前までは、それぞれの蔵で、蔵に住み着いた酵母を「生?(きもと)づくり」「水?」「菩提?」といった原始的な工法で、蔵付酵母を増殖させて、日本酒を仕込んでいました。ですから、蔵によって香味の格差が大きかったことと思います。

■これぞ100%無添加の極みの日本酒
 秋田のA酒造から、おもしろい規格の限定酒が発売になりました。その酒蔵に住み着いた蔵付酵母を、生?づくりで仕込んだ酒です。何も添加していない日本酒。つまり100%無添加の純米酒です。しかも、搾った酒を、濾過することもなく、直に瓶詰めしていますので、瓶の底にはうっすらとにごりが残っています。ラベルも税務署に届け出ないといけない必要事項だけが記載され、ラベルもありません。100%無添加を主張しているのでしょうか。
 さて、味わいです。早速、妻と二人で試飲しました。
 香味ともにマスカット(白ぶどう)のような爽やかで心地良い酸味を帯びた吟醸香。口に含むと、香りと同じイメージの心地良い酸味を帯びた味わい。ドイツやフランスアルザス地方のドライ(辛口)な白ワインのような味わいです。こんな白ワインを彷彿させる酒は飲んだことがありません。たいへん美味しいです。これが蔵付酵母の持つ特性なのでしょうネ。

 

 

【刈穂 蔵付自然酵母仕込み生?づくり
純米生原酒ちょいにごり直詰め】(新発売)


615号 2012年7月1日

(73)夏の涼『みぞれ酒』 〜シャーベット酒を楽しもう〜

 

◆夏の涼「みぞれ酒」を楽しもう
 残念ながら、日本酒は夏場にかけて消費量がグンと下がります。日本酒の持つ商品特性上仕方がないことかもしれませんが、日本人として、日本酒の夏場の楽しみ方を、多くの方に知ってもらいたいと思い、今回は「みぞれ酒」(シャーベット日本酒)の楽しみ方をお伝えしたいと思います。

◆7月1日は氷室の節句
 江戸時代、旧暦6月朔日(1日)を氷室の節句といっていました。今の暦でいうと7月1日に相当します。
 この日、加賀藩では氷室から凍った雪を切り出し、桐製の二重造りの長持に入れて、陸路で氷室の氷を江戸に運んだといいます。昼夜なく走りに走り、4〜5日かけて氷は江戸に運ばれ、将軍に献上されました。氷で冷やした日本酒を楽しんだといいます。庶民は氷を口にすることはできませんでしたので、クズを氷に見立てたお菓子で楽しみました。

◆フローズン日本酒の作り方
 フローズン状態にしてよい日本酒を選ぶ必要があります。みぞれ酒・フローズン日本酒用として市販されているものもありますが、そうでない場合は
@通常の日本酒のアルコール度数(14〜16%)より高めの度数(17〜19%)の日本酒を選ぶ。
A淡麗辛口のタイプではなく、少し甘めのタイプを選ぶ。
【作り方】
@栓を開け、徳利や片口に酒を入れる。
Aマイナス20℃の冷凍庫に@を入れます。約2時間でみぞれ酒(フローズン日本酒)の出来上がり。
 今回は新潟県産の八海山・特別純米生詰め原酒を使ってみました。
 うっかり冷凍庫から出し忘れるとガチガチに凍ります。その場合、器の周りを流水にさらし、酒を溶かしてください。

◆見て涼し、飲んで涼し
 シャリシャリのみぞれ酒は、見ても飲んでも涼を楽しめます。ビールやサワー、ハイボールにない清楚な涼感がたまりません。ご自宅で簡単にできますので、お試しください。


619号 2012年7月29日

(74)泡の魅力の話

◆泡の魅力
 泡の出る酒と言えば…?。「ビール」と「シャンパーン」を思い浮かべるかと思います。簡単にいうと、糖分を微生物(酵母菌)が分解して、酒(=アルコール)を作る時に、二酸化炭素(炭酸ガス)を生産します。泡の出る酒とは、この炭酸ガスまで、密閉した容器に詰め込んだものです。酒と泡は全く無関係なものなのではないのです。
 シャンパーンは17世紀の半ば、フランス・シャンパーニュー地方の修道院で生まれました。まだ、完全に発酵しきっていないワインジュースが、当時開発されたばかりの耐圧性の瓶に詰められていました。ある夜、地下のワイン庫から、「ポン」…「ポン」とワインの栓が抜ける音が。ワインジュースは瓶内で発酵し、アルコールと炭酸ガスが瓶の中で生まれ、徐々にガス圧が高くなり、栓が抜けたのでした。
 盲目の修道士・ドン・ペンリーニョンが発見した、これまでに味わったことのないワインは、のちのちシャンパーンとして、世界中の人々を魅了してきたことは言うまでもありません。「ドン・ペンリーニョン」(ドンペリ)の名前のシャンパーンは、最高級のシャンパーンとして有名ですね。

◆ジャパニーズ・シャンパーン・スパークリング日本酒の開発
 日本酒業界で「にごり」や「澱」がからんだ発砲性の酒はこれまでに多くの酒蔵で発売されていました。しかし、最近、山形県天童市の酒蔵が開発した発泡清酒は、常識を覆した全く新しい発砲清酒です。「にごり」や「澱」がなく、澄み切った発砲清酒です。まさに、日本酒のシャンパーンが誕生しました。この酒が発売されるまでには、長年の研究の積み重ねがありました。私が酒蔵が発砲清酒の市販化を目指し、研究をしていることを知ったのは平成8年2月でした。この時、酒蔵を訪問して、試飲したのが微発砲清酒でした。泡(ガス)を閉じ込めたまま瓶詰めするというのは簡単ではありません。約20年以上に及ぶ試行錯誤が繰り返されていました。瓶ごとにガスの圧力が違い、香味がなかなか均一にできないことなどから、市販化には至りませんでした。製造過程は極秘。圧力がかけられるタンクの中で発酵させ、炭酸が抜けないように濾過、瓶詰めしたとのことでした。それから15年…。「咲」(さく)というシャンパーンのような純米発砲清酒が生まれました。

◆泡まで旨い「咲」味わいは…
 「スパーク日本酒 咲」。グラスに注いだ瞬間、シュワーッと軽やかな音が心地よく耳に入ってきます。軽快なクリアで爽快な飲み口は、その名の通り、いっせいに咲き誇る桜の花ようです。しかし、爽快なだけではありません!日本酒らしいコクと旨みも十分に楽しんでいただける味わいになっております! 気品ある泡まで旨い日本酒は、きっと今世紀、世界中の人々を魅了するに相応しい、酒質と香味を持っています。猛暑の盛夏、涼しげな「咲」で乾杯してみては如何でしょうか?。


623号 2012年9月2日

(75)9月は酒が最も旨い季節

◆二百十日
 立春から数えて二百十日。今年は8月31日が二百十日でした。二百十日から二百廿日(はつか)にかけては、大型の台風が日本に襲来して、大きな被害を及ぼすとされています。
 この時期、米の花が咲く季節と重なります。台風がもたらす強風雨に稲がさらされると収穫が大幅に減ります。各地で、風を鎮めるための神事やお祭りが行われます。熊本では、高森町の風鎮祭が、風を鎮め五穀豊穣を願う伝統的なお祭りです。
 台風さえ来なければ、この時期は一年の中で最もお酒が美味しい時期であると私は思います。夕方、日が沈めば、凌ぎやすくなります。盛夏の時期とは違い、湿度もそれほど高くなく、少し乾燥した風が吹き抜けてくれます。こんな夜に飲むビールは格別に旨いです。
 うだる様な暑さの中で、身体がほてった後で飲むビールの旨さは、砂漠に水を撒くようなもの。どれだけ飲んでも、乾きが癒されませんね。
 しかし、すこし乾燥して、心地よい残暑を感じるこの時期のビールは、素直にビールが旨い。ほどよい量で満足できます。ビールの後に飲む日本酒や焼酎もなお旨い。
 私にとっての二百十日は、酒を嗜む絶好の季節なのです。

◆あっさりから芳醇な味わいへ
 初秋から中秋、晩秋にかけて、皆さんが美味しいと欲する味わいも変わってきます。それに併せて、選ぶお酒も変化してきます。
 盛夏の時期は、香りが低く、味わいが軽快な淡麗超辛口の日本酒や焼酎が人気でした。飲み方も冷やで、焼酎ならばロック、水割りで、スイスイと飲むスタイルで楽しんでらしたのではないかと思います。
 秋の使者・サンマは、秋の深まりとともに脂分が増します。また北の海から南へ下るカツオ(戻り鰹)も、初夏のあっさりとした味わいから、脂分を含んだ複雑な味わいに変わっていますね。
 同じ酒蔵のお酒も変化をします。春先の初々しい味わいから、蔵内のタンクや冷温庫でじっくり寝かせた日本酒は、熟成した円熟味を増してきます。全国各地の酒蔵で、熟成した味わいの日本酒を『ひやおろし』として発売されます。
 食の秋。今秋は食の味わいに加えて、季節によって味わいを変える日本酒の織りなす魅力に触れてみてはいかがでしょうか?


628号 2012年10月7日

(76)4時間でできる塩麹づくり 〜吟醸酒蔵流塩麹づくりを伝授します〜

◆たった4時間で塩麹完成!!
 9月15日(土)菊陽西小学校の児童約 40名と塩麹づくりをしました。主催は菊陽西小学校PTA母親委員会。お母さんたちが近くの味噌屋さんで手造り味噌づくりを。子どもたちは、学校の家庭科室で塩麹づくりをしました。
 簡単に、短時間にできる塩麹づくりは、塩麹を体験した児童のお母さんたちから大反響。今月は、4時間できる塩麹づくりを伝授します。

※南国九州の酒蔵では、高温糖化法という手法で、酒母を作ります。酒母とは、本仕込みに入る前に、酒酵母を培養するものです。米麹と蒸米を入れて60℃程度に保ち、蒸米のデンプンを一挙に糖化させて急速に冷やします。つまり甘酒を作っているのです。
その後、酒酵母を入れて発酵させます。

@先ずは甘酒を作る
【材料】
    白米 2合(300g)
    麹米 1000g(市販のもの)
    塩 200〜250g

 炊飯器を利用して、白米2合でお粥を作ります。お粥ができたら、冷水を1?加えます。お粥の品温は50〜60℃程度に下がります。この後、麹米を1000g加え、よくまぜます。
 炊飯器を保温モードにして、炊飯器の蓋を閉めます。
 30分〜1時間ごとに蓋を開けて、箸でよく撹拌します。約4時間すると、米の粒粒が溶けはじめ、トロトロの状態になってきます。甘酒の完成です。

A甘酒に塩を入れて、ハイ、塩麹の完成〜
 甘味に飢えていた時代、麹を利用して甘味を作り出した先人たち。その智恵に脱帽。麹というカビを駆使して、甘酒を作るんですからスゴイ。甘酒は、江戸時代には夏場によく飲まれていたそうです。甘酒の中には、ビタミンがたっぷり。先人たちは、甘酒を飲んで、夏バテを防止していたのです。甘酒の俳句の季語は「夏」。別名「飲む点滴」ともいいます。
 砂糖を全く入れずにすごく甘〜い。甘酒といいますが、アルコール分は0%。出来上がった甘酒を子どもたちと試飲。最近の子どもたちは甘味に飢えておらず、意外と不評でした。
 甘酒の重量を100として、7%の塩を入れ、撹拌すると塩麹が完成。即日、お料理に使うことができますよ。


632号 2012年11月4日

(77)晩秋に旨い燗酒と鮗(このしろ)

◆え〜、あの鮗(このしろ)が築地では…
 有明海で豊富にとれる雑魚(ざこ)のひとつ鮗(このしろ)が旬を迎える季節となりました。水温が下がり、脂分も多くなります。安価でおいしい鮗は、酒の肴にピッタリです。
 鮗はニシン科の魚です。熊本ではニシンは獲れませんが、鮗は豊富に獲れます。鮮魚店をのぞくと、銀色に輝く鮗がならんでいます。色味が綺麗で、目が赤くなく、身が締まったものを選ぶとよいと思います。

 鮗はたいへん小骨が多い魚です。1o程度に包丁を入れなければなりません。逆に言えば、カルシウムを豊富に摂ることができます。また、ビタミンB2を豊富に含み、体内の悪玉コレステロールを低下させるのに効果があるとされる不飽和脂肪酸類も豊富に含んでいます。
 まさに、酒の肴として、鮗以上のものはないと言っても過言ではありません。お財布にも優しく、体にも優しく、舌がとろける味わい。三拍子揃った魚です。

 熊本では「このしろ」が一般的ですが、江戸・築地に行きますと、大きさによって呼び方が違います。幼魚はシンコ⇒若魚はコハダ⇒ナカズミ⇒成魚がコノシロと名前を変える出世魚なのです。
 江戸前のお寿司には、コハダは欠かせません。先日ラジオで(10月26日午前のNHKラジオ第一)築地に入る鮗の初ものの価格は、鮪の初競りの時の価格と変わらないと報じていました。もともと、江戸湾でも豊富にとれた鮗も、今ではあまりとれなくなり、築地に上がる鮗は熊本県有明海産であるというのです。
 ということは、今、食べている鮗は、東京とは大トロよりも値が張るということになります。ありがたいけれども、経済原理でもって、高く買ってもらえる市場に鮗が運び込まれ、地元では食べられなくならないかたいへん心配です。

 木枯らしが吹きはじめるこの時期、旨味の乗った「ひやおろし」の純米酒、コクのある山廃や生?系の純米酒を、温めにお燗して(45℃程度)、鮗を食す。鮗にワサビを付け、醤油につける。脂分が少々醤油に広がる。口に入れる。淡白ながら噛みしめるたびに、ほどよい旨味が上品に広がります。噛みながら、少量の燗酒を口に含めば、さらに旨味が増します。
 燗酒を飲んで鮗を食べ、鮗を食べ燗酒を飲む。きっと止められなくなります。
 秋の夜長に、鮗と燗酒を楽しんでみませんか?


636号 2012年12月2日

(78)新米新酒を楽しもう

 11月23日は勤労感謝の日でしたね。昭和23年から勤労感謝の日となったようですが、もともとは新嘗祭(にいなめさい)でした。
 日本は瑞穂の国。稲を育てて、米を主食としてきました。新嘗とは、その年とれた穀物のことを指すそうです。この日、収穫した穀物の恵みに感謝するという行事が新嘗祭なのです。勤労感謝祭というよりは、収穫祭というニュアンスが当てはまると思います。

◆先ずは飲んで欲しい〜新米新酒
 新米を炊いた時、あのなんとも言えない香り、光沢、味わい。あの食味を「美味しい」と感じるのは、日本人の感性なんだそうですね。
 新米の新酒を飲んだ時にも、同じように、新酒だからこそ味わえるフレッシュな香味に感動があります。12月になりますと、全国各地の銘醸酒蔵から、新米で作ったヌーボー(新酒)がぞくぞく発売になります。今年は新米新酒(日本酒)を愛でてみてはどうでしょうか?

◆新米新酒の特徴は?
 「新米新酒」という言葉は、この原稿を書くにあたって私が作った単語です。通常は「しぼりたて」「しぼりたて生」「しぼりたて生原酒」「新酒」「あらばしり」などという文字がラベルにあしらってあります。
 新米新酒は、お燗ではなくて、冷や若しくは常温で飲むことをお奨めします。度数が高い新酒は、氷を入れてロックにするのもいいでしょう。

◆宇野功一がチョイスした2012年の新米新酒あれこれ

 

 

@出羽桜『雪漫々』新酒無濾過生原酒(大吟醸)
 雪漫々(ゆきまんまん)は酒徒の間では、銘酒として有名ですね。大吟醸を氷温で1年以上熟成させて出荷されます。今年は、全国の数店のお店にだけ、雪漫々を搾ったままの状態で出荷。誰も飲んだことのない逸品です。12月26日ごろ入荷予定。要予約。

 

 

 

A『泰斗』新酒無濾過生
 熊本県山鹿市の千代の園酒造の限定酒。熊本産山田錦を原料に、熊本酵母で仕込む。芳醇な香味が特徴。おりのからんだ状態で、直瓶詰め。クリスマスの夜に飲むのも一考かと思います。12月20日ごろ入荷予定。
 これ以外にも、全国各地から新米新酒が届きます。みなさんのご家庭で、飲み比べてをして、今年の一年を振り返ってみては如何でしょうか?


640号 2013年1月1日

(79)お節料理と日本酒

◆平成25年元旦は「とりぽん…」
 明けましておめでとうございます。今年は平穏な一年であってもらいたいものですね。
 元日を皆様はどのように過ごしますか?大晦日から赤酒に屠蘇散を浸漬させたお神酒を先ずは飲んで初詣。それから、お節料理を召しあがるのでは…。
  ここ最近「とりビー」という言葉があります。若者言葉です。居酒屋で「とりあえずビール」のことを「とりビー」と言うそうです。お節料理には「とりビー」ではなく「とりぽん」がぴったりです。「とりあえず、ぽんしゅ(日本酒)」で一年の福をいただきましょう。

◆お節料理と日本酒の相性は最高!!
 お節料理は、古人の人たちの思いをカタチにしたもののように思います。

数の子…ニシンの卵。数の子の黄金色は豊穣の実りに通じ、子孫繁栄を願ったものです。
田作り(ゴマメ)…イワシの稚魚の佃煮。カタクチイワシを田んぼに撒いて肥料にしたところ、豊穣な実りになったとか。
たたきごぼう…牛蒡は地中深く根を張り、黒色は邪気を払うといいます。
紅白蒲鉾…赤は魔除け、白は純真無垢を意味します。蒲鉾は祝いの宴になくてはならない存在でした。ワサビの緑を入れると、色彩も美しく日本酒にぴったり。
伊達巻…卵焼きのこと。伊達○○は派手なことの代名詞。ご存知、伊達正宗公に由来。余談ながら、○○正宗は辛口の日本酒の代名詞です。
…ブリを刺身、焼き物にして食べます。ワカナゴ→ハマチ→ブリと成長によって名前を変える出世魚として縁起を担いで食します。寒ブリは脂が乗ってほんとうに旨い。芳醇な旨味の日本酒と相性がいいですね。
…「めでたい」の語呂合わせ。ブ6リより淡白ですので、日本酒も淡麗系が合いますね。
海老…伊勢海老、車海老、どちらも高価ですね。髭が長く、背が丸い。長寿を意味したものです。車海老を塩焼きして、頭からガブリ。毛ガニよりも芳醇な味噌の味わい。芳醇な日本酒をグビ。そして身を食べる。最高ですね。
昆布巻…「よろこぶ」の語呂合わせ。巻物は勉学に励む意味もあるようです。

 縁起を担ぐ食べ物のオンパレード。冷や用として淡麗系の日本酒と、お燗用として芳醇系の日本酒の2種類をご用意しておけば、どんなお料理にも対応できます。縁起のよいお節料理を食べ、今年一年、よい年でありますように。
平成癸巳(みずのと み) 元旦


644号 2013年2月3日

(80)麹室に学ぶ 冬の洗濯物を乾かす知恵

◆冬の洗濯物の乾かし方
 寒い冬の時期、主婦の悩みとして、登場してくるのが「洗濯物がなかなか乾かない。特に大物が乾かない」という悩みです。夏場ならば、2時間あればパリッと乾く洗濯物ですが、この時期はなかなか乾きませんね。
 
 厳冬の時期、みなさんは日本酒を醸す蔵へ行ったことがありますか?。厳冬の時でも、日本酒の蔵にはハワイのように常夏の部屋があります。それは「麹室」です。ひと冬を通して、気温約35℃、湿度約50%をキープしています。麹室を簡単に説明しますと、蒸した米を麹室に引き込んで、ある程度温度を冷まし、麹菌を振りかけます。麹菌を米内部に菌糸を伸ばすようにするのです。麹室を乾燥させることによって、水分の多い米内部へと菌糸を伸ばすのです。

 では、麹室はどんな仕掛けになっているか、お教えいたしますね。
 例えば、0℃で湿度100%の空気があったとします。この空気を、30℃まで温めた場合、湿度は約50%になります。大気は温度が低ければ水分をたくさん含めませんし、温度が高ければ高いほど水分をたくさん含むことができます。
 麹室は電熱で暖められるようになっています。みなさんのお部屋も、ストーブや暖房機で、麹室ほど高くはないと思いますが、部屋の温度は18〜22℃ぐらいになっていると思います。
 日本酒蔵の麹室には、天井の2つの煙突で空気を吸気し、排気しています。この2つの煙突の高さを変えることで、自然と吸気と排気の減少が起こります。
 温度が高い空気は、比重が軽く高い煙突から排気されます。変わって、比重が重い外気が低い煙突から麹室内へ吸気されます。湿度100%の空気が部屋に入ってきても、暖めてあげれば、乾燥状態を作り出すことができますね。この仕組みを発見したのが、熊本県酒造研究所・初代社長であった故・野白金一博士。業界ではこの天窓を野白式天窓といって、現在でも全国各地の酒蔵で野白式が活躍しています。
 室内で洗濯物を乾かす場合もこれを応用します。洗面所と風呂場を利用します。この空間に乾かしたい洗濯物を干し、暖房で暖めるか、暖房機がない場合は、ストーブを用意します。風呂場の換気扇をONにして、空気を排気させます。洗面所の入り口のアコーデオンカーテンを閉めることで、カーテンの下部から部屋内に吸気されます。ご家庭で、麹室に似た空間を作ることができます。
 冬場、外に洗濯物が干せなくても、洗濯物を楽に乾かすことができます。


648号 2013年3月3日

(81)安土桃山時代から評判の花見酒

◆桜と日本人
 今年の熊本の桜の開花は3月19日との発表がありました。桜の花は春の使者として、古来より日本人が愛した花です。開花から1週間で満開をむかえ、美しく、はかない花の姿は、日本人が美徳とする「潔さ」に通じるところがあります。
 花見の歴史は古くは奈良時代、中国から伝来した「梅」の鑑賞に始まり、平安時代に桜の花に変わってきたと言われています。野外で盛大に宴を行う「花見」は、桃山時代、太閤秀吉が開いた醍醐の花見が有名です。慶長3年3月15日(1598年4月20日)、京都の醍醐寺で、秀吉、ねね(北政所)、秀頼、淀君をはじめ諸大名や配下の諸々、総勢1300名余り。太閤記が伝えるところ、宴には「加賀菊酒」が登場します。戦国時代の姫たちも、加賀菊酒の旨さに酔いしれたやも知れません。きっと、お茶々も、お初も、お江も(お市の三人娘)加賀菊酒を飲んで、桜を愛でたでしょう。

◆加賀の菊酒
 今から500年以上も昔の室町時代。人々が憧れた銘酒がありました。「加賀の菊酒」です。加賀の菊酒は最も古い幻の銘酒でした。貝原益軒が晩年の著「扶桑記勝」で「加州剱は金沢より三里、白山より下る川あり、手取川と云。大河也。その水にて酒を作る。雪水にてつくる。甚好酒。色すめり。或者天下をめぐりて酒の高下を試む」(霊峰・白山から流れる出る手取川の雪解け水で仕込む酒は、澄んでおり美味)と述べています。
 現在でも白山山麓の手取川の流れる付近には銘醸蔵が数多くあります。「菊姫」「天狗舞」「手取川」「萬歳楽」が有名です。今年の花見は、加賀の菊酒をたずさえて、粋に宴を行うのはいかがでしょう。

◆最高のにごり酒(これからが旬)
 「吟醸、純米、普通酒など造りの違う全てのジャンルに最高の味を求める」という言葉通り、頑固なまでのこだわりによって醸される「菊姫」の思想が息づいたお酒は、普通酒クラスのお酒にも兵庫県特A地区の吉川町産山田錦を用いられます。そして、鑑評会用と市販用の区別をせずに行われる仕込み。もちろん、これらの伝統に裏づけされた揺るぎない誇りから生まれるこの新酒のにごり酒も、酒米の旨味が生きた個性的な味を持っています。醗酵完了直前の甘みの強い醪(もろみ)を、そのまま練りひいた風雅の酒は、醪そのものが持つ自然な旨味と、柔らかな飲み口をお楽しみいただけます。室町時代から評判の花見酒の紹介でした。

〜酒質コメント〜
にごり酒は濃醇でベタベタ甘いと思っている方、このにごり酒は違います。ほんのりと甘味を感じる米の旨み、なんとも言えない上品な味わい。すこし、ホワイトチョコレートににた味です。ロックで飲むのもお薦めです。


653号 2013年4月7日

(82)日本酒にはサプリメント成分がいっぱい

 日本酒造組合中央会出版したリーフレットがあります。(秋田大学名誉教授:滝澤行雄先生監修)なかなかいいリーフレットです。もっと掘り下げて掲載したいと思います。

◆復活の一杯
 「毎日の晩酌が楽しみ〜」という人に、長寿な方が多いのはなぜでしょう。昔から「百薬の長」といわれてきた日本酒。そのメカニズムが、ここ最近解明されつつあります。適度な飲酒は、心臓病やガン、骨粗鬆症、老化・痴呆などの発症リスクを下げるというデータが、世界の疫学的研究で次々に発表されています。健康を維持するだけではない、積極的に元気を応援してくれる日本酒。あなたの心身をよみがえらせる、一杯の効果を知ってください。

◆サプリ(アミノ酸)あれこれ買うより 日本酒飲もう
 私たちの身体に必要なアミノ酸。お酒の中でも特に多くのアミノ酸を含むのが日本酒です。日本酒に含まれるアミノ酸は、胃を丈夫にして、食欲を増進してくれます。また、動脈硬化、心筋梗塞、肝硬変や健忘症など、多くの生活習慣病の予防に有効だということも解明されてきています。サプリメントを飲むのもよいけれど、家にある日本酒をちょっと思い出してください。ほろ酔い気分で、アミノ酸の恩恵にあやかる。これこそ、一石二鳥の健康法です。

◆有用なアミノ酸を豊富に含む日本酒
 「酒は、米の水であるから栄養がある」とよく言われるように、一合で約150kcalあるため、日本酒を大量に飲むと他の栄養素を含む食品を食べなくても、エネルギーだけは十分に補給されます。日本酒は15〜16%のアルコール分の他に、酸、アミノ酸、アミン、砂糖、ビタミン他約100種類以上の微量物質が存在しており、これが日本酒独特の風味を醸し出します。飲酒時の生理的感覚や心理的感覚に影響を与えるのは、主に蛋白質の構成成分であるアミノ酸類です。日本酒は酒米自体に含まれるアミノ酸も多く、微量物質がほとんどゼロに近い蒸留酒とは大きく違うのです。
 日本酒のアミノ酸総量は総じて100ml中10〜200mg。最近販売されている日本酒のアミノ酸組成の分析結果によると、純米酒のアミノ酸総量は202.2mg、(いずれも100ml当たり)となっており、アミノ酸が豊富なことです。日本酒のアミノ酸組成を見ると、含量が比較的多いのはグルタミン酸、アラニン、ロイシン、アルギニンなどです。グルタミン酸は脳の機能を、アラニンは免疫の機能をそれぞれ高め、ロイシン(イソロイシン、バリン)は蛋白質代謝を調整します。
 飲んで美味しく、体によい日本酒は、美肌効果もあり、秘かなブームとなってきています。


657号 2013年5月5日

(83)平安貴族が愛した酒 スイーツ『貴醸酒』

 立夏を過ぎ、端午の節句を迎えました。これから日々暑さが増してきます。こんな時に、滋養強壮をつける日本酒があります。1200年前の平安時代から、日本にあった歴史ある日本酒をご紹介致します。

◆平安の貴族たちが味わった酒・スイーツ
 実は、最近、日本酒が秘かなブームなのです。少し前までの淡麗辛口系統の日本酒から、バラエティーあふれる酒質が広がっています。味わいの深い芳醇タイプを求めるファン、甘口の日本酒を求めるファンが多くなってきました。そんな芳醇で、甘口の酒を追求して行ったその果てにあるのが「貴醸酒」なのです。
 「古事記」「日本書記」に登場する八岐大蛇(ヤマタノオロチ)退治。悪戯が過ぎて、高天原(タカマガハラ)を追放された須佐之男命(スサノオノミコト)。須佐之男命は大蛇を退治するために大甕に「八塩折之酒」(やしおりのさけ)を用意。八塩折というのは、何度も何度も仕込みを繰り返して、仕込んだ濃い口の酒とされています。即ち、貴醸酒であったと言われています。
 平安時代に出てくる書物「延喜式」などには、平安初期の宮中の様子が書かれています。当時、宮中には造酒司(みきのつかさ)という役職があり、酒戸たちが酒を醸したといいます。祭司に使う酒を醸していたのです。贅沢に仕込まれた「シオリの酒」のトロリとした甘口の酒は、平安の貴族たちに絶大な人気を誇っていたのです。

◆デザートと一緒に楽しむ
 貴醸酒と日本酒の違いを一言でいうと、仕込み水の代わりに日本酒を用いるということです。水の代わりに、日本酒を用いますので、コストがかかります。贅沢の極みと言う訳です。
 出来上がった酒はどんな味になるかといいますと、蔵によっても、地方によっても違いがありますが、大よそ、芳醇にして超甘口の日本酒が出来上がります。香りはハチミツのような香りを放っています。貴腐ワインのような、シェリー酒のような香りです。色は強い琥珀色を呈します。味わいは、干しブドウの甘さを凝縮したような、ハチミツのような、和三盆糖のような、黒糖のような複雑な味わいと甘味が広がります。
 飲み方は、食後のデザートと一緒に合わせてください。スィーツや果物、水菓子にもぴったりです。ガブガブ飲むのではなく、少量を嗜むみたいに。
 飲み方は、ロック若しくは炭酸割り。アイスクリームに直接かけても旨い。
 1200年の時を越えて、貴醸酒がスイーツの仲間入りをするかもしれません。

新潟の某メーカーの貴醸酒(新発売)
日本酒度はマイナス30と、超弩級の甘口。300ml 840円


661号 2013年6月2日

(84)今年の夏は、日本酒ハイボール

◆度数が気になる日本酒
 余談から話題に入りますが、日本がグローバル化しているのとは逆に、世界がニホン化をしていることをご存知ですか?
 日本というものに憧れを抱く人が世界中にいるということです。食文化では寿司に代表される和食。アニメ文化もそうです。芸能文化も世界へ羽ばたいています。
 日本酒もご多分にもれず、欧米でブームというより、着実に根付き始めています。アルコール分解力が旺盛な西洋の方々にとって、日本酒のアルコール度数の14〜17%というのは、ワインよりも少し高い程度で、食中酒として心地良い度数のようです。
 西洋人が一般にいう「酒」というのは、「スコッチ」「バーボン」「ジン」「ウォッカ」などの蒸留酒を指します。どれも、アルコール度数が40%以上のものばかりです。
 さて、ご本家の日本人に、日本酒が何故受け入れられにくいのでしょうか?その一つに、飲む時のアルコール度数の高さがあると思います。日本酒は度数が14〜
17%で市販されています。日本酒は、冷やで飲めば、その度数をそのまま口にすることになります。
 焼酎は25%ありますが、ロックにしたり、水割りにしたりして、おおよそ、口にする時のアルコール度数は12〜13%になっています。実際に口にするアルコール度数は、日本酒の方が高いのです。

◆今年の夏は日本酒ハイボール
 それならば、日本酒は冷や、お燗でそのまま飲む、という既成概念から脱却してみましょう。邪道かもしれませんが、なかなか美味しい世界があります。
<日本酒ハイボール>
 日本酒を炭酸で割って楽しんでみましょう。暑い暑い夏、日本酒はキレの悪さからちょっと敬遠されがちです。
 ですが、日本酒を炭酸で割って飲んでみると、意外どころか、たいへん美味しい飲み物になります。日本酒の香りや味わいはそのままに、キレの悪さが解消され、シャープで清涼感が出てきます。
 日本酒:炭酸=1:1なら7%
 日本酒:炭酸=2:1なら9%
のアルコール度数となります。お好みの度数で楽しめます。
 暑い夏のお風呂上がりに、ビール感覚で、日本酒ハイボールは如何でしょうか?
 日本酒ハイボールだけ飲んでも美味しいです。もちろん、料理と一緒に飲んでも美味しいです。


666号 2013年7月7日

(85)七夕酒雑話 = あまちゃん、あま酒

◆あまちゃん「あま酒」
 「じぇ、じぇ」っという感嘆詞が最近流行となっています。NKH朝ドラ「あまちゃん」の中で、「驚いた〜、びっくりした」ときに使う驚きの北三陸地方の方言が「じぇ」なんだそうです。
 全く関係はありませんが、あま酒って、実は夏に飲む飲み物であるということをご存知でしたか?「あまざけ」を歳時記で検索してみますと「夏の季語」なんです。「じぇ」でしょう…。あまざけは、寒い冬、もしくは、ひな祭りの時期に飲まれるので、まさか「夏」の飲み物と思うのも当然かもしれません。

◆東洋のバレンタインデー
 月と日が奇数で同じになる日を節句といいます。1月は元旦、3月は桃の節句、5月端午の節句、9月は重陽(菊)の節句とされています。なぜだか7月7日だけが○○の節句とは言われていません。
 天空を見てみますと、天上に輝く最も明るい星がこと座ベガこと「織姫星」。天の川を挟んで輝く星がわし座アルタイルこと「彦星」。二人は一年に一度だけ、7月7日に会うことが許されました、という物語は、今から3000年ほど前、中国で生まれ、日本には800年前の万葉のころに伝来したようです。まさに、7月7日は東洋のバレンタインデー。きっと西洋の歴史より古いのではないかと思います。「じぇ」でしょう〜。

◆庶民はあまざけを飲む…
 クーラーのない時代、なんで昔の人が元気だったか?それは「あまざけ」を毎日のように飲んでいたからです。江戸幕府は、万人があまざけを飲めるように、4文以下(現在の価格で約60円)で販売するようにしたそうです。全国各地で、この時期、あまざけ売りがいたそうです。また、下級武士は内職として、あまざけを作ったそうです。あまざけはまさに夏の風物詩であったのです。
 あまざけは、アルコール分が0%です。蒸した米に麹をまぶして、麹菌が作り出すアミラーゼにより、米のデンプンが糖化され、甘くなります。ブドウ糖が20%以上も作り出されます。加糖なしで、自然の甘味なのです。(これに酵母が入ると、アルコール発酵が始まり酒になるのですが…)あまざけは、ブドウ糖以外に、麹菌が作り出した多種のビタミン類、多種のアミノ酸が含まれるのです。その成分は、滋養強壮剤に記載されているものとほぼ同じなのです。そのため、衰弱した体の栄養補給として最適。まさに飲む点滴です。
 あまざけは、最も古いサプリメントだったのです。
 「じぇ!じぇ!じぇ!」でしょう〜。


670号 2013年8月4日

(86)甕仕込み・木桶仕込み・琺瑯仕込み

◆お酒を醸す器の話
 古来より、まつりごとに欠かせない酒。その歴史は古く、粘土を焼き固めた土器で仕込まれていました。酒に限らず、醤油や味噌などの調味料も甕壺(かめつぼ)で仕込まれていました。
 室町時代ごろ、木桶が登場するようになります。木を巧みに組み合わせて、竹で編んだ箍(たが)をはめて、液体が漏らないように造った木桶が登場してきます。木桶の登場は画期的な発明でした。木桶は中国大陸から伝承された文化ではなく、日本人によって発明された文化です。
 甕壺では、一度に少量しか仕込めなかった酒が、木桶では、一度に大量に酒が仕込めるようになりました。スケールメリットのお蔭で、酒の単価が安価になり、酒を商業ベースで製造販売するお店ができるようになりました。
 室町時代中期に書かれた多聞院日記に「オケ」という言葉が登場してきます。
 全国の造り酒屋で、最も古い歴史を持つ蔵はこの時代に生まれたと言われています。今から約500〜600年前のことです。

◆江戸〜大正時代の酒は木桶仕込み
 江戸時代になりますと、全国各地津々浦々、造り酒屋が登場してきます。晩夏から秋にかけて、造り酒屋は、桶の材料の木材を買い込み、この材料を使って、桶屋職人が蔵内の庭先で、「カツ、カツ、カツ、カツ」と木槌を叩く音がしていました。
 先ず、新桶は日本酒の仕込みに使われました。20〜30年すると、この古桶は味噌屋・醤油屋・油屋に払下げられ、さらに100年程度使われていました。大正時代まで、日本酒は木桶で仕込まれていました。

◆琺瑯(ホーロー)タンクの登場
 工芸品の「七宝焼き」をご存知でしょうか?鉄やアルミの金属の表面に、シリカ(二酸化ケイ素)というガラス質の釉(うわぐすり)を塗り、高温で焼き締めたものです。化学的な反応がすくない素材が出来上がります。
 この技法を応用して、昭和初期に琺瑯(ホーロー)タンクが発明されました。当時、たいへん高価な容器でした。しかし、あっと云う間に、木桶から琺瑯タンクに切り替わってしまいました。その当時、酒税は生産量の6%を控除していました。なぜなら、木桶なら隙間から漏れる恐れがあるので、その分を免除していました。琺瑯タンクなら漏らないため、まるまる6%は儲けます。また、管理が簡便で修理の必要がないというメリットもありました。高価なタンクは瞬く間に全国に広まり、戦後木桶で仕込む酒はほとんど姿を消しました。
 時代とともに、仕込み容器も甕壺→木桶→琺瑯タンク→ステンレスタンクと変遷してきました。


678号 2013年10月6日

(87)月を眺めるひと月 「月下独酌」

◆月を眺めるひと月と「ひやおろし」
 今年の中秋の名月は9月19日でしたね。夕方、東の空から、真ん丸い大きなお月様が、煌々と昇ってくるのを子どもと眺めていました。

『名月を とってくれろと 泣く子哉』 小林一茶

空気が澄んだ秋の空のお月様は、一年で最も美しいですね。
 旧暦8月15日が中秋の名月とされています。今年は9月19日のことでした。余談になりますが、明治5年以前は、日本の暦は太陰暦でしたので、1日は朔日(月が出ない日)、15日は満月。現在は太陽暦のために、月の満ち欠けと日にちが一致しませんね。
 「花鳥風月」の言葉が表現するように、古来より日本人は、自然の移ろいを、美しいものとしてとらえてきました。春の桜、秋の月はその最も代表的なものでしょう。桜はパッと咲いて、潔く散る姿に、人の世の無常やはかなさを重ねているように思います。
 秋の月は、古人の人々はおよそひと月、眺めていたといわれています。月の出の時間は毎日約50分遅くなります。中秋の名月の次の日の月は「十六夜」です。その次の日、旧暦17日の月は立待月、旧暦18日の月は居待ち月、旧暦19日の月は臥待ち月(寝待ち月)といいます。毎晩50分ずつ月の出が遅くなるのを、立って待つ、座って待つ、寝て待つというような、古人の月を待つ姿勢を現したユニークな言葉があります。
 月のお相手はやっぱり「酒」だったのではないでしょうか。
 春の花見のように、命の息吹を感じさせるような、大人数でワイワイ盛り上がるような宴に対して、秋の月見は「月下独酌」のように、しんみりとした静かな宴がぴったりですね。独りで飲むのもよし、夫婦でしんみり飲みのもよし。過ぎ行く年を振り返るように、静かに飲む宴。スローな宴にはやっぱり日本酒です。

◆月をめで、酒をめでる秋
 10月1日(火)は「日本酒の日」。昨シーズンにできた新酒は、春、夏と蔵の中でじっくりと熟成させて美味しさを増してきます。そして、10月1日に「ひやおろし」として各地の銘醸蔵から出荷されます。熟成した美味しさがあります。
 10月17日(木)が十三夜の月(旧暦9月13日)。十三夜の月は「後の月」とか「栗名月」とか言われます。そして10月19日(土)が次の十五夜になります。
 月をしみじみ眺め、しみじみ飲む日本酒。月と日本酒でスローな夜が楽しめる時期です。


682号 2013年11月3日

(88)日本酒愛飲健康法 2日に1合 飲もう!
    国立がんセンター等の調査によると・・・

 お酒を適度に飲む人は、がんで死亡する確率がまったく飲まない人の約半分、たくさん飲む人は逆に約1.5倍であることが、国立がんセンターなどの大規模調査で明らかになりました。がんと飲酒の関係について本格的な調査が行われたのは今回が初めてのことだそうです。適度な飲酒は必ずしもがんの確率を高めるわけではないことを示すデータとして、注目される調査結果です。適度な晩酌は、健康増進に役に立つということが実証されたものですね。
 調査を行ったのは、国立がんセンター研究所支所・津金昌一郎臨床疫学研究部長らの研究グループ。岩手県、秋田県、長野県、沖縄県の40歳代、50歳代の男性のうち、がんなどの病気にかかっていない健康な1万9231人を対象に、1990年から1996年までの7年間を追跡調査しました。

 調査は、お酒を飲む頻度別に
〈1〉非飲酒者
〈2〉2週に1回程度飲む人
〈3〉日本酒に換算して2日に1合(180ml)飲む人
〈4〉毎日1合飲む人
〈5〉毎日2合飲む人
〈6〉毎日4合飲む人

の6グループに分類し、飲酒とがんによる死亡リスクを比較しました。

 その結果、7年間に死亡した人は548人、うちがんで死亡した人は214人で約4割。がんで死亡する確率は、非飲酒者を「1」とすると、2週に1回程度飲む人は0.79。2日に1合飲む人は0.53。毎日1合飲む人は0.9と非飲酒者よりも低かったのに比べ毎日2合飲む人は1.48。毎日4合飲む人は1.54と急激にリスクが増加することが分かりました。
 一方、がんも含めた死亡リスク全体では、非飲酒者を「1」とした場合2週に1回程度飲む人は0.84、2日に1合飲む人は0.64、毎日1合飲む人は0.87、毎日2合飲む人は1.04、毎日4合飲む人は1.32。過度の飲酒は特にがんによる死亡のリスクを高めている傾向が見られます。
 津金部長は「ほどよい飲酒は、がんになる確率を必ずしも高めるものではない。過度の飲酒者は、禁酒ではなく節酒で、がんによる死亡リスクを軽減できるだろう」と話しています。やはり、適量の酒は百薬の長が実証された結果だけに、愛飲家には嬉しい話題ですね。


686号 2013年12月1日

(89)樽に足らない雑話

◆ボジョレーヌーボーの樽酒でサンテ

 先日、光の森のとある和食のお店で、ボジョレーヌーボーの樽詰めワインを飲む会を開催しました。11月第3週の木曜日がボジョレーヌーボーの解禁日ということで、20名の方が集まりました。お客様が見守る中、樽に呑み口を取り付けます。蝋で覆われた箇所を剥いで、コルクをソムリエナイフで抜き、呑み口を取り付け、隙間から漏れないように、トンカチで「トントン」と叩き、上部の空気穴のコルク栓を抜き取りました。輝く綺麗なルージュの雫が、ワイングラスにほとばしった瞬間、「お〜っ」という感嘆の声がみなさんから出ました。
 お味の方は「ブラボー」。
 2013年のボジョレーヌーボーの味わいは、酸味が少なく、飲みやすい。特にグビグビ飲めるワインに仕上がっていますね。今年は例年のようにマスコミにあまり騒がれていませんので、質のわりに、価格が手頃です。本来円安になっていますので、価格が高くなる傾向にあるのですが、騒がれていない分、お財布に優しい価格となっています。
 普通は瓶詰めのワインを楽しむと思います。この時に飲んだワインは樽詰め。瓶にはない、なんともいえない木樽の香りをまとって、甘みを感じさせる滑らかな味わいがあります。はっきり言って瓶詰めとは一味違いました。
 1時間少々で15リットルの樽は空に。ひとり4合をペロリと飲んだことになりました。

◆足るに樽のか、樽酒・・・

 酒は液体であるために、どんなに美味しいお酒ができたとしても、漏れてしまったら、どうしようもありません。お酒を入れる容器として、陶器、木樽、瓶、缶、紙パック、ポリ容器と時代と共に変化していきます。
 高級なお酒、ワインや焼酎、日本酒を含めて、瓶詰めが今でも多いです。ワインにおいては、発酵後、樽詰めして熟成をさせます。
 ワインは1650〜1700年に瓶流通が主流になっています。江戸時代、日本酒は瓶ではなく、樽で流通していました。江戸に入る灘酒の記録では、1年間に、なんと4斗樽(72リットル)が百万本送り込まれていたそうです。
 瓶詰めではない、ヒノキの香味がほんのりとついた日本酒、なんとも言えませんね。樽酒を飲みながら、ふと、考えたことを書きました。Sante!(サンテ!)
※サンテとは仏語で「乾杯」の意味です。

 

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